予定配賦率の計算方法や予定配賦額の求め方をわかりやすく解説

原価計算には耳慣れない用語が数多く登場します。計算方法も様々なものがあり、混乱されている方は少なくないのではないでしょうか。

本記事では、製造間接費における予定配賦率に焦点をあてています。実務においてなぜ予定配賦が使われるのか、どのように予定配賦率と予定配賦額を算定するのかといった疑問やお悩みを解消していただけるような内容です。

是非、最後までお付き合いください。

予定配賦率とはあらかじめ決めていた配賦率のこと

予定配賦率とは、製造間接費を配賦するために予め定めた率のことです。これを基に製造間接費を割り当てる方法を、予定配賦と言います。

原価計算基準第二章第二節三三「間接費の配賦」では、間接費は原則として予定配賦率をもって各製品へ割り当てるものだとされています。つまり、製造間接費は予定配賦が原則です。

配賦の意味についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

>>配賦の意味とは? 読み方や配賦基準の設定方法、種類を解説

【補足】
製造間接費:特定の経費に紐づけられない製造原価です。二種類以上の製品の製造に共通的に発生することが原因で、個々の製品別の発生額を直接的に認識されない製造原価を言います。

予定配賦は、実際配賦のデメリットを超克するために使用されます。そのデメリットと予定配賦のメリットをそれぞれ見ていきましょう。

実際配賦のデメリットと、それを補える予定配賦のメリット

実際配賦のデメリット

実際配賦は、あまり用いられることがありません。その理由は、計算に時間がかかり、操業度によって単位原価が変化してしまうからです。

【補足】

実際配賦とは:製造間接費(実際発生額)を配賦基準によって割り当てます。

  • 実際配賦率 = 製造間接費実際発生額 ÷ 配賦基準数値の合計
  • 実際配賦額 = 実際配賦率 × 配賦基準値

<配賦基準の例>

  • 直接工の直接作業時間
  • 直接労務費
  • 直接材料費
  • 機械運転時間 等

個々のデメリットについて、深堀りしてみましょう。

1:各製品の原価の計算が遅れる

実際配賦は、事実として生じた金額を割り当てます。一定期間の製造間接費の実際発生額が確定する(原価計算期間の経過後)までは、各製品への製造間接費の配賦計算が行えません。

ですから、各製品の原価の計算が遅れてしまいます。

2:製品の原価が安定しない

操業度の多寡によって、製品の単位原価が変動し原価が安定しないこともデメリットです。

製造間接費の中には、固定費(家賃や減価償却費等)があります。これは、操業度に関係なく一定額が生じる費用です。固定的な費用が含まれていると、操業度によって製品の単価が著しく変動してしまいかねません。固定費が大きいと、操業度が低下するのに比例して配賦率・製造原価が上昇します。

また、他製品の操業度の高低によって単位原価が変動することも。こちらは、具体的な例を基に解説します。

【例】

A社は、製品a・製品bを製造している。製品bは夏に売れる季節品である。(配賦基準は直接作業時間)

4月8月
製品製品a製品b製品a製品b
生産量100個100個100個300個
直接作業時間10時間10時間10時間30時間
製造間接費50万円80万円

【4月の実際配賦額】

実際配賦率=50万÷20時間(10時間+10時間)=2.5万円/時
製品a=2.5万×10時間=25万
製品b=2.5万×10時間=25万

【8月の実際配賦額】

実際配賦率=80万÷40時間(10時間+30時間)=2万円/時
製品a=2万×10時間=20万
製品b=2万×30時間=60万

製品aは、4月と8月で生産量・直接作業時間共に変動していません。しかし、実際配賦率ひいては実際配賦額に差が生じています。

このように同じ製品を同じように製作していても、操業度によって配賦率が変動するのを避けられません。その変動性を取り除くために、予定配賦を行います。

【補足】
操業度とは:一定の期間に製品を製造するための生産設備の利用度です。操業率または稼働率とも呼ばれます。可能な生産量に対する実際の生産量の比率です。
工場の最大生産能力が100個で実際の生産数量が80個であれば、操業度は80%となります。

迅速に原価計算ができなかったり、計算期間ごとに原価が安定しなかったりするのは不便ですね。だからこそ、このような欠点を補うべく使用されるのが予定配賦です。

予定配賦のメリット

予定配賦のメリットは、原価計算を迅速に行うことができる点と単位原価が安定する点です。どういうことなのかご説明します。

1:製品完成後すぐに計算できる

先述した通り、予定配賦では会計年度のはじめ等に予め予定配賦率を決めておきます。ですから、原価計算期間の経過を待たずして、製品完成後すぐに原価計算が可能です。

実際配賦では、一定期間の経過後にしか計算できなかったことに比べると、迅速に計算に着手できていると言えます。

2:一定の配賦率により単位原価が安定する

予定配賦の場合は、一律の配賦率によって製造間接費を割り当てます。原価計算期間の操業度により製品の単位原価が変動することがありません。

変動性が取り除かれ、合理的なのが予定配賦です。予定配賦をするためには予定配賦率を設定する必要があります。その前知識となるものについて、次でご紹介しましょう。

予定配賦率を求めるために必要な項目を解説

【製造間接費予算】固定予算と変動予算

製造間接費予算額とは、一年間の基準操業度の間に発生する製造間接費を予測した金額です。2つに大別され、固定予算と変動予算があります。

それぞれについて、どのようなものか確認しましょう。

固定予算=すべて固定費として設定する予算額

操業度に関わらず一定の製造間接費予算を設定する方法です。予算と操業度を固定し、操業度が変化しても製造間接費予算額は変化させません。つまり、製造間接費すべてを固定費として考えます。

その性質上、操業度に応じて発生する費目を無視した方法です。

変動予算=変動費と固定費に分けて設定する予算額

より柔軟に予算の算定ができるのが変動予算です。

製造間接費を変動費と固定費に分け、操業度に応じた予算を設定する方法です。変動費は操業度の変移に応じて変わり、固定費は操業度の変移に関係なく一定で生じると考えます。

変動費率に操業度を乗算して、固定費の予算額をプラスした額を予算額とする方法です。下部の四角形部分が固定費部分で、上部の三角形部分が変動費部分。

公式法変動予算は、公式「y=ax+b」を用いて表している予算です。

製造間接費予算額 = 変動費率 × 操業度 + 固定費

【基準操業度】4種類の予定配賦基準数値の合計

詳しくは後述しますが、予定配賦率は製造間接費予算額を基準操業度で除することで算出します。

固定予算と変動予算のグラフでも登場した、この基準操業度という言葉とは何か。それは、一定期間(一年または一会計期間)において予期される配賦基準の合計値を指します。

下記の4つがありますので、自社の状況に適したものを使用しましょう。

最大操業度(理論的生産能力)

理論上計算できる最大の操業度のことです。機械や人間が常に最大の能率で活動することを前提としています。

機械のメンテナンスや故障、工員の休息や欠勤等といった不可避的に起こる作業休止による生産量や作業時間の減少を一切考慮していません。

常に理想的な状態が継続的に持続されるものと想定されています。そのため、最大操業度を基準操業度として用いるのは妥当ではないでしょう。しかし、実際的操業度算定の基礎となります。

実際的操業度(実際的生産能力)

実際的生産能力や達成可能最大操業度とも呼ばれ、実際に達成可能な最大の操業度のことです。

前述した最大操業度を基に、通常発生すると考えられる機械の故障等に係る生産量や作業時間の減少を考慮して算定されます。要するに、物的・人的な故障、等のほか、様々な事態を想定し余裕を持って実際に達成可能と考えられる最大の操業度水準です。

ただし、需要の増減は考慮されていません。製品需要が十分にあって生産調整等を考慮せず、どれだけたくさん作ってもすべて売れるような状況を除いて基準操業度として採用するのは避けた方がよいでしょう。

正常操業度(平均操業度)

平均操業度とも呼ばれ、過去の平均操業度から季節的な変動や景気変動を考慮して生産量の増減を長期的に平均化した操業度です。長期的に販売量と生産量が一致するという視点から算出されます。

通常の生産では合理的と言える操業度です。しかし、絶えず変化に晒される業界では5年のアベレージでは時代遅れとなる場合があります。そのような場合は、期待実際操業度を使用しましょう。

予定操業度(期待実際操業度)

期待実際操業度とも呼ばれ、次の一年間に予想される販売予定量に基づいて決定した操業度です。平均操業度より短期的視点で予測するため、長期的な操業度の予測が困難な場合等において使用されます。

予想ベースのため、平均操業度に比べて必ずしも合理的ではありませんが、絶えず変化に晒される業界においては、正常操業度(平均操業度)よりも正確な値となる場合が多いのが特徴です。

周辺知識について学んでいただいたところで、本題の計算に移ります。

予定配賦率の計算方法は? 予定配賦額の求め方も紹介

予定配賦率=製造間接費予算を基準操業度で割った数値

予定配賦率は、以下の計算式で算出します。

予定配賦率 = 製造間接費予定額 ÷ 基準操業度

A社の一年間の製造間接費予算は2,000万円で基準操業度(直接作業時間)を5,000時間としたとき、予定配賦率の算定は下記の通りです。

2,000万円÷5,000=4,000円/時

直接作業時間一時間あたり4,000円の製造間接費が生じると見積もっていることになります。

事前に定めた予定配賦率を使用して、実際操業度における予算相当額である予定配賦額を算出します。

予定配賦額=予定配布率に実際にかかった時間をかける

予定配賦率が決まれば、予定配賦額を下記の計算式で算出します。

予定配賦額 = 予定配賦率 × 実際操業度

A社の予定配布率は4,000円/時で製品aの直接作業時間は200時間、製品bの直接作業時間は300時間としたとき、予定配賦率は下記の通りです。

製品a:4,000円×200時間=80万円
製品b:4,000円×300時間=120万円

製品aには80万円、製品bには120万円が予定配賦されます。

予定配賦率と標準配賦率の違いとは?

ベースとなる予算が実際原価計算制度か標準原価計算制度かということが異なります。

実際原価計算制度における予算を基準操業度で除せば予定配賦率で、標準原価計算制度における予算を基準操業度で除せば標準配賦率です。

実際原価計算は、実際に製品に使用した部品・材料等の数量や単価、費やした作業時間を積算した原価計算法となります。一方で、標準原価計算は、科学的・統計的な分析に基づいて算定された標準原価によって、製品の目標値(理想値)となる原価を計算するものです。

標準原価と実際原価とを比較することによって差異を分析し、発生原因を明らかにすることにより適切な原価管理を行うことが可能となります。

予定配賦率の計算方法や予定配賦額の求め方についてまとめ

予定配賦は、原価計算を迅速かつ配賦率が一定になるというメリットがあります。変動性が排除された合理的な方法であるため、製造間接費の原則は予定配賦です。

予定配賦率は、製造間接費予算額を基準操業度で除することで算出します。基準操業度は、自社の状況に合ったものを選びましょう。

原価計算は躓きやすい分野ではありますが、全体を一度通してみることで理解がしやすくなります。是非、本記事や他記事をご活用いただき、全体像を掴んでいただければ幸いです。

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