よく使用される勘定科目のひとつとして知られている「預り金」。従業員への給料の支払い時や年末調整等でよく登場しますが、実際には立替金や前受金との違いや、なぜ「負債」に分類されるのか等をよく理解していない方も多いのではないでしょうか。
今回は、預り金とよく混同される勘定科目との違いに触れ、預り金の具体的な仕訳例を見ながら、「預り金」について詳しく解説します。
「預り金をよく使うけど実際にはどんな勘定科目なのかわかっていない」
「なぜ預り金が負債になるのか理解できていない」
「預り金にどういった種類があるのか知りたい」
このようなお悩みを持つ方は、是非今回の記事を参考にしてください。
預り金とは?読み方や分類、含まれるものを解説
預り金(あずかりきん)とは会社が一時的に預かったお金を計上する勘定科目
預り金は「あずかりきん」と読み、会社が一時的にお金を預かった際に使われる勘定科目です。役員・従業員・取引先から預かる場合がほとんどで、将来的には本人に返金したり第三者に支払ったりして、会社からなくなる現金です。
外部の税理士や弁護士に報酬を支払う際にも預り金が関係してきます。報酬支払い時には相手が税理士法人や弁護士法人でない限り、通常は、源泉所得税を差し引いた分を報酬として支払うものです。ここで差し引いた源泉徴収税を預り金として計上することになります。
また、不動産の賃貸人である大家が、部屋を貸付ける時に最初に預かる敷金も預り金に当たります。
預り金という勘定科目に含まれるもの|補助科目に記載する名前
預り金は、役員・従業員・取引先から一時的に預かり、後に会社が支払わなければならないお金が該当しますが、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。ここではその補助科目を紹介します。
例えば代表的なものに、従業員の源泉所得税や住民税、社会保険料があります。ほかにも、社員旅行の費用として給料から事前に差し引く旅行積立金や、給料やボーナスから天引きして積み立てる貯蓄である財形貯蓄預り金も預り金として計上されます。
以下に代表的な補助科目を並べたので、どのようなものがあるのか確認してみてください。
- 源泉所得税
- 住民税
- 社会保険料(健康保険料・雇用保険料・厚生年金保険料等の従業員負担分)
- 役員や従業員の社内預り金
- 旅行積立金
- 財形貯蓄預り金
- 共済金費預り金
- 寮費預り金
- 営業保証金
- 入札保証金
なぜ預り金は資産ではなく負債に分類されるのか?
預り金がなぜ資産ではなく負債なのかと疑問を持つ方がいるかもしれません。その理由は、預り金は、会社がいずれ支払わなければならない現金だからです。したがって、資産(現金)が減少すると考えられ「負債」に分類されるのです。
負債には「流動負債」と「固定負債」の2つがあり、返済期限によって区別されます。流動負債は返済期限が決算日から1年以内のもので、固定負債は返済期限が1年以上と支払いまでに余裕のある負債のことです。
従業員の源泉所得税や住民税、社会保険料等、預り金として扱われるものは、1年以内に支払われるため「流動負債」に分類されます。
ただ、大家が賃借人から預かる敷金は、返済に1年以上かかる場合がほとんどなので、同じ預り金でも「固定負債」に分類されます。
預り金と、前受金等のよく似た勘定科目との違いとは?
預り金との違い|前受金は自社がサービスを提供前に代金を受け取ったときの勘定科目
預り金はほかの勘定科目とよく混同され、間違った計上をされることがあります。似ているとされる勘定科目でよく間違えられるものに「前受金」があります。
前受金は、商品やサービスの売買が行われた際に、その代金の一部または全部を前もって受け取った際に用いる勘定科目です。
預り金は、いずれ本人もしくは第三者にお金を支払わなければならないのに対して、前受金は商品・サービスを提供した代金なので、会社の売上となります。
預り金との違い|立替金は相手が支払うべき代金を立替えたときの勘定科目
立替金は、役員や従業員、もしくは取引先が本来なら自分で支払わなければならないものを、代わりに会社が前もって支払った(立替えた)場合に処理される勘定科目です。
このケースでは、会社に支払いを立替えてもらった人は、その代金を後で会社に支払う必要があります。
立替金が、お金を預かる「前に」支払先に支払うのに対して、預り金は、お金を預かった「後に」支払います。支払いが前なのか、後なのかが、この2つの違いです。
預り金との違い|仮受金は内容がわからない入金があったときの勘定科目
仮受金も預り金と混同されやすい勘定科目です。仮受金は、何に対する入金なのかがわからない時に一時的に会計処理をするために使われます。入金の内容が判明した際には、正しい勘定科目に振り分ける必要があります。
預り金も仮受金も、一時的な入金を計上するという意味では同じです。しかし預り金は目的を持って預かるもので、仮受金は内容が未確定の時に使われるものなので、預り金とは性質が違います。
預り金は目的によって3種類に分けられる
預り金は、目的を持って一時的に預かり、いずれは返済・支払義務のあるお金を言いますが、その目的によって大きく以下の3種類に分類できます。
ひとつは、社会保険や労働保険の預り金。2つ目は税金の預り金。そして最後に、貯蓄やその他の預り金です。
社会保険や労働保険の預り金は、社員の社会保険や労働保険を会社が納付するために預かるもの。税金の預り金は、従業員が支払うべき所得税や住民税を会社が代わりに支払うために従業員から預かるものです。
貯蓄やその他の預り金は、前述した2つのどちらにも該当せず、特定の目的をもって預かったものを指しています。次にそれぞれの仕訳例を見ていきましょう。
預り金の目的別の処理・仕訳例・納付期限
解説|目的が「社会保険や労働保険」の預り金の処理
社会保険と労働保険は、ある条件を満たしていれば会社は必ず加入しなければなりません。
まず、従業員を5名以上雇用している会社には、社会保険の加入義務が生じます。社会保険に加入している会社は、従業員の社会保険料の一部を負担しなければなりません。労働保険も同様で、労働者が1人でもいる場合は労働保険の加入義務が生じ、労働保険料の一部を会社が支払います。
会社と従業員とで折半する保険料の支払いの流れとしては、まず本来従業員が負担しなければならない社会保険料・労働保険料を差し引いて、会社が従業員に給料を支払います。その後に、従業員への給料支払い時に天引きした金額と、会社が負担しなければならない金額を、合わせて日本年金機構に支払うイメージです。
仕訳例|「社会保険や労働保険」の預り金を預かったとき・支払ったとき
従業員への給与支払いの際に社会保険料を預かり、後に会社負担分と合算して社会保険料を納めた時の仕訳です。実際には従業員が払わなければならないお金を事前に会社が預かっているので「預り金」として計上されています。
例)従業員の給料30万円のうち2万円を社会保険料として本人から徴収した
借方 | 貸方 | ||
給与 | 300,000 | 現金 | 280,000 |
預り金(社会保険料) | 20,000 |
例)事前に預かった本人負担分の社会保険料2万円と、会社が負担する2万円の計4万円を社会保険料として支払った
借方 | 貸方 | ||
預り金 | 20,000 | 現金 | 40,000 |
法定福利費 | 20,000 |
会社は、従業員の労働保険料の1年分を先に支払います。その後に、実際には従業員が支払うべき労働保険料を給料から差し引いていきます。その際の仕訳に預り金が使われます。
例)従業員の1年分の労働保険料10万円を会社が支払った
借方 | 貸方 | ||
法定福利費 | 100,000 | 現金 | 100,000 |
例)給料支払日に従業員が支払う労働保険料の1000円を会社が徴収した
借方 | 貸方 | ||
給与 | 1,000 | 預り金 | 1,000 |
預り金 | 1,000 | 法定福利費 | 1,000 |
社会保険料や労働保険料は従業員の賃金によって変わってきます。上記の金額はその一例ですので、仕訳方法を参考にしてください。
このように、社会保険や労働保険の支払い時には「預り金」を使って計上します。
納付期限|「社会保険や労働保険」の預り金の場合
社会保険料の納付は、事前に会社が徴収した本人負担の金額と、会社が負担する金額を合わせて毎月末までに納付先へ納めます。例えば、4月分の社会保険料は5月の給与支払い時に徴収し、5月末に支払いを済ませます。
労働保険は4月1日から翌3月31日分を概算し、6月1日〜7月10日に1年分を支払います。
解説|目的が「税金」の預り金の処理
会社は従業員に対して給与所得を支払いますが、そこに対してかかってくるのが「所得税」と「住民税」です。会社は従業員の給料から所得税と住民税を徴収して、代わりに国や自治体に納税する義務があります。
また、会社の従業員以外にも、所得税を徴収して代わりに納税する必要がある場合があります。例えば、税理士や司法書士、社会保険労務士に報酬を支払った場合です。報酬の10.21%を源泉徴収し、本人の代わりに納付しなければなりません。
仕訳例|「税金」の預り金を預かったとき・支払ったとき
従業員の給与所得にかかる所得税と住民税を、会社が代わりに納付した際の仕訳です。
例)従業員の給料30万円から、所得税と住民税を差し引いて給料を支払った
借方 | 貸方 | ||
給与 | 300,000 | 現金 | 287,000 |
預り金(所得税) | 5,000 | ||
預り金(住民税) | 8,000 |
例)事前に従業員の給料から天引きした所得税と住民税を会社が代わりに納付した
借方 | 貸方 | ||
預り金(所得税) | 5,000 | 現金 | 13,000 |
預り金(住民税) | 8,000 |
所得税と住民税は、社会保険や労働保険のように会社が負担する必要はありません。
次に、税理士に対して源泉徴収して報酬を支払った際の仕訳です。
例)税理士へ10.21%の源泉徴収をして報酬を支払った(消費税額は含まないものとする)
借方 | 貸方 | ||
税理士報酬 | 55,000 | 現金 | 49,895 |
預り金(源泉所得税) | 5,105 |
例)税理士の源泉徴収税を納付した
借方 | 貸方 | ||
預り金(源泉所得税) | 5,105 | 現金 | 5,105 |
納付期限|「税金」の預り金の場合
従業員の給与から事前に徴収した所得税や住民税は、徴収した月の翌月10日までの納付が義務付けられています。所得税は会社の所在地を管轄する税務署へ、住民税は従業員が住む市区町村に納付します。
また、翌月10日が土日や祝日だった場合は、休日明けの平日までに納付する必要があるため要注意です。
解説|目的が「貯蓄やその他」の預り金の処理
従業員の社会保険料・労働保険料や税金に当てはまらないもので「預り金」として処理されるものは、例えば社員の旅行積立金や財形貯蓄等が該当します。
これらは会社を通して処理されることが多く、その場合は会計上では預り金として仕訳します。
仕訳例|「貯蓄やその他」の預り金を預かったとき・支払ったとき
従業員の社員旅行積立金を給与から預かった場合の仕訳です。
例)旅行積立金1万5千円を差し引いて従業員の給料を支払った
借方 | 貸方 | ||
給与 | 200,000 | 現金 | 185,000 |
預り金(旅行積立金) | 15,000 |
例)差し引いていた旅行積立金で従業員の社員旅行代金を支払った
借方 | 貸方 | ||
預り金(旅行積立金) | 15,000 | 現金 | 15,000 |
納付するべき預り金の期限を過ぎてしまったら?
従業員から事前に預かっている社会保険料や税金等には、納付しなければならない期日があります。その納付期限を過ぎたにもかかわらず、支払いがまだ完了していない場合は一体どうなるのでしょうか。
一度、納付を遅延してしまうと、1年以内に再度延滞を起こした時点で不納付加算税が課税されます。通常、納付金額の10%が課されますが、税務署から指摘される前に納付した場合は5%に引き下げられます。また、延滞税は、納付期限日の翌日から2か月は2.6%、それ以降は8.9%です。
納付期限を過ぎていると気付いたら、その時点ですぐに支払い対応をしましょう。場合によっては数日の遅れであれば、延滞税を免れる場合もありますが、納付期限は日頃から確認しておきましょう。
預り金はマイナスになり得る|その場合の処理の仕方
預り金はマイナスになる場合があります。例えば、従業員の給料から天引きして税務署に支払った税金より、実際に計算して算出した所得税の方が金額が少なかったケースです。この場合は多めに徴収した金額を、年末調整で従業員に返さなければなりません。
その際の仕訳は以下のようになります。
例)年末調整で、1万円を従業員に払い戻すことになった際の仕訳
借方 | 貸方 | ||
給与 | 200,000 | 現金 | 158,000 |
預り金(所得税) | 4,000 | ||
預り金(住民税) | 8,000 | ||
預り金(社会保険) | 40,000 | ||
預り金(源泉所得税) | 10,000 |
このように預り金での勘定を続けていけばマイナスは解消されますが、決算時にマイナスを残しておきたくない場合等は「立替金」として計上もできます。貸方の源泉所得税の預り金を「立替金」として振替えることで、マイナス表示を防げます。
【まとめ】 預り金の種類と仕訳方法の違いについて押さえよう
今回は「預り金」の種類や、似た勘定科目との違い、具体的な仕訳方法について詳しく紹介しました。
経理担当者にとっては、預り金はよく登場するお馴染みの言葉です。その意味や具体的な使われ方等をしっかりと把握しておけば、日々の会計処理をより効率的に進めることができるのではないでしょうか。
また、社会保険料や源泉所得税等の預り金の未納は絶対にあってはならないことで、会社としても延滞税を支払わなければならない等不利益を被ってしまう可能性があります。
日頃から支払日の期限をこまめに確認しておきましょう。何らかのツール等を使い、管理を徹底することをおすすめします。