キャッシュフロー計算書の作り方を直接法・間接法ともに詳しく解説

企業が儲かっているのに、資金が足りずに起こるのが黒字倒産です。黒字倒産は、誰もが避けたい事態ですよね。

黒字倒産が起こるのは、損益計算書で帳簿上の利益を知ることはできても、手元にどれだけの経営に必要な資金があるのかまでは把握できないからです。

では、どうやって自社の資金を把握するのか。そのための手段が、キャッシュフロー計算書です。 

最近の会計ソフトには、自動作成する機能が備わったものもあります。とは言え、それをきちんと活用するには、科目設定をしたり、作成した内容が正しいか確認したりすることが必要です。また、どういった過程を経てそれが作成されるのかを知っておくことも重要でしょう。

手作業で計算書を作成するにせよ、機械作成するにせよ、基礎知識を備えておくことは欠かせません。

ですので、この記事ではキャッシュフロー計算書の基礎知識や作成方法について解説しています。

是非、最後までお付き合いください。

目次

作り方を理解するためにキャッシュフローの基礎知識を知ろう

キャッシュフローとは簡単にいうとお金の流れのこと

キャッシュフロー(CF)とは、言わばキャッシュ(現金および現金同等物)の流れのことです。

現金とは、手元現金および要求払預金(当座預金・普通預金・通知預金等)を指します。一方で現金同等物とは、容易に換金可能で換金金額の変動可能性の低い、3か月以内の短期金融資産(定期預金・譲渡性預金・コマーシャルペーパー等)のことです。

キャッシュフローは、会計期間中の現金等の流入から流出を差し引いた収支ですので、次の計算式で表せます。

キャッシュフロー:「流入した現金等(キャッシュ・イン)」-「流出した現金等(キャッシュ・アウト)」
【補足】会計期間(事業年度)とは:企業会計において財務諸表を作成する対象となる期間のこと。損益計算を行うための時間的な区切りを設けるために設定します。日本国内では、3月・12月で区切る企業が多いです。会計期間は自由に設定可能ですが、1年単位にすることが一般的。

詳しくはこちらをご参照ください。

会社の経営状況を知るための書類を財務諸表(決算書)と呼ぶことは、皆さんご存知かと思います。では、財務三表にキャッシュフロー計算書が含まれているのをご存知でしょうか。

キャッシュフロー計算書と損益計算書・貸借対照表との関係

貸借対照表(Balance SheetまたはB/S)と損益計算書(Profit and Loss statementまたはP/L。)は、すべての企業に対して作成が義務づけられている書類です。

他方で、キャッシュフロー計算書(Cash flow StatementまたはC/F。Statement of cash flowとも言う。)は上場企業のみ作成義務があり、非上場の企業には義務づけられていません。

これら3つのことを財務三表といいますが、それぞれ役割が違います。

  • 貸借対照表(B/S):資産・負債から財政状況を知る
  • 損益計算書(P/L):収益・費用から経営成績を知る
  • キャッシュフロー計算書(C/F):現金等の流れを知る

役割こそ違うものの、この3つはそれぞれ関係しています。

  • 貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L):

    P/Lの当期純利益(net income。以下、NI。)は、B/Sの繰越利益剰余金に留保される。

  • 貸借対照表(B/S)とキャッシュフロー計算書(C/F):

    前期のB/Sの現金等と今期のC/Fの現金等の期首残高は一致。そして、今期のB/Sの現金等とC/Fの期末残高も一致する。

  • キャッシュフロー計算書(C/F)と損益計算書(P/L):

    C/Fで間接法を使う場合は、P/Lの税引前当期純利益(以下、税引前NI)を基に各種数値を加算・減算して営業活動によるキャッシュフロー(以下、営業キャッシュフロー)を計算する。

財務三表について理解したところで、キャッシュフロー計算書について詳しく学んでいきましょう。

キャッシュフロー計算表の区分3つとフリーキャッシュフロー

キャッシュフロー計算書は、貸借対照表(B/S)・損益計算書(P/L)では表示されない現金等の流れを示す財務諸表です。

キャッシュフロー計算書は、以下のようなものです(営業キャッシュフローは間接法)。

Ⅰ 営業活動によるキャッシュ・フロー

税引前当期純利益
減価償却費
貸倒引当金の増減額
受取利息および受取配当金
支払利息
有形固定資産売却損益
売上債権の増減額
たな卸資産の増減額
仕入債務の増減額
小計          利息および配当金の受取額
利息の支払額
法人税等の支払額
営業活動によるキャッシュ・フロー 

Ⅱ 投資活動によるキャッシュ・フロー

有価証券の取得による支出
有価証券の売却による収入
有形固定資産の取得による支出
有形固定資産の売却による収入
投資有価証券の取得による支出
投資有価証券の売却による収入
貸付けによる支出
貸付金の回収による収入
投資活動によるキャッシュ・フロー 

Ⅲ 財務活動によるキャッシュ・フロー

短期借入れによる収入
短期借入金の返済による支出
長期借入れによる収入
長期借入金の返済による支出
社債の発行による収入
社債の償還による支出
株式の発行による収入
自己株式の取得による支出
親会社による配当金の支払額
財務活動によるキャッシュ・フロー 

Ⅳ 現金および現金同等物の増減額Ⅴ 現金および現金同等物の期首残高Ⅵ 現金および現金同等物の期末残高

現金等の流れを3つの区分に分けて表示することにより、3つの視点から現金等の流れを追います。

  1. 営業活動によるキャッシュフロー(営業キャッシュフロー):
    営業活動(主たる業務)からどの程度の資金を獲得しているのか
  2. 投資活動によるキャッシュフロー(投資キャッシュフロー):
    資金をどの程度、将来の利益獲得のために投資しているのか
  3. 財務活動によるキャッシュフロー(財務キャッシュフロー):
    営業活動・投資活動のために、どの程度の資金が調達されているのか

これに加えて、フリーキャッシュフローというものがあります。

フリーキャッシュフローとは、会社が事業活動で稼いだお金のうち、自由に使える現金等がどれだけあるかを表すものです。

フリーキャッシュフロー:「営業キャッシュフロー」+「投資キャッシュフロー」

フリーキャッシュフローがプラスで金額が多ければ、経営状態が良好。フリーキャッシュフローがマイナスであれば、資金調達の必要があると判断されます。

営業キャッシュフローの小計より上の区分の表示方法には、2つの方法があります。どちらの方法でも、最終的な数字は同じです。

それぞれに利点・欠点がありますので、どちらが自社に合っているか考えながらお読みください。

営業キャッシュフローの作り方には直接法と間接法がある

【直接法】キャッシュの流れが総額でわかる

この方法は、営業キャッシュフローの収入・支出の流れを総額で捉えます。国際会計基準になっているのは、こちらの方法です。

下記項目について、収入・支出を個々に合算します。

  1. 営業収入
  2. 非資金の費用項目
  3. 原材料または商品の仕入れによる支出
  4. 人件費の支出
  5. その他の営業支出
  6. 利息および配当金の受取額
  7. 利息の支払額
  8. 損害賠償金の支払額
  9. 法人税等の支払額

【直接法】メリットとデメリット

記載方法は、収入・支出を個々に合算します。そのため、現金の増加・減少を事細かに

把握できます。

しかし、個々に合算する作業に手間がかかるため、国際会計基準で推奨されていても採用している企業は少ないのが現状です。

もうひとつの方法はどのようなもので、どのような利点・欠点を持つのでしょうか。順を追って、見ていきましょう。

【間接法】損益計算書を基に作成する

P/L(損益計算書)を基に作成する方法です。税引前NIから、各費用・収益を増減して間接的にキャッシュフローを計算します。

【損益計算書・簡易版】

経常損益営業損益売上高:①
売上原価:ⅰ
売上総利益:A(①-ⅰ)
販売費および一般管理費:ⅱ
営業利益:B(A-ⅱ)
営業外損益営業外収益:②
営業外費用:ⅲ
経常利益:C(B+②-ⅲ)
特別損益特別利益:③
特別損失:ⅳ
税引前当期純利益:D(C+③-ⅳ)
法人税・住民税および事業税:ⅴ
当期純利益:E(D-ⅴ)

上記表の税引前NI(D)から、②・③・ⅲ・ⅳを加算・減算。そこから、減価償却費(depreciation。)等の現金等の支出を伴わない費用である項目を除外します。その上で、売上債権(売掛金・受取手形)や仕入債権(買掛金・支払手形)を加算・減算して営業キャッシュフローを計算します。

【間接法】メリットとデメリット

この方法は、作成が簡単なのがメリットです。中小企業だけでなく、上場企業でも多く採用されています。

ただし、直接法に比べると現金等の出入りを事細かに掴めないという欠点があります。

それでは、続いて具体的なキャッシュフロー計算書の作成手順について見ていきましょう。

【直接法】キャッシュフロー計算書の作り方5ステップ

①商品の販売による収入の集計  

総勘定元帳等を準備して、下記の額を合算します。

  • 売上のうち、現金売上等で現金等が増えた額
  • 売掛金や受取手形のうち、現金等で回収した額
  • 売上に関わる前受金の額等

営業キャッシュフローは、営業活動(主たる業務)からどの程度の現金等を獲得しているのかを見ます。ですので、営業収入に含めるのは本業の売上に関わる現金が増えた額です。

②商品の仕入れによる支出を集計

総勘定元帳等から、下記の額を合算します。

  • 仕入のうち、現金仕入等で現金等が減少した額
  • 買掛金や支払手形のうち現金等で支払った額
  • 仕入に関わる前渡金等

※製造業の場合は、原材料に関わる現金等の支出を合算します。

③人件費等その他の支出を集計

給料や賞与等の人件費に関わる科目のうち、現金等で支払った額を合算します。未払分があれば、未払分は差し引きます。

④その他の営業費の支出を集計  

販売費および一般管理費にあたる経費科目の未払分を差し引いて、当期に現金等で支払った金額を合算します。

【間接法】のキャッシュフロー計算書の作り方4ステップ

①税引前当期純利益の額を入力  

P/L(損益計算書)から、税引前NIの額を確認し、入力します。C/F(キャッシュフロー計算書)の税金等調整前NIと、P/L(損益計算書)の税引前NIは同じです。

②減価償却費等、非資金損益項目を調整

現金等の減少を伴わない費用・現金等の増加を伴わない収益を調整します。具体的には、下記のものです。

  • 減価償却費:加算
  • 貸倒引当金:当期に貸倒のあった部分を除いて非資産項目。

前期から増えていればプラスし、減少していればマイナスする。

③支払利息や受取利息等、営業外の収益・費用を調整

営業活動以外の損益を取り除くために、下記の項目について、P/L(損益計算書)の額を除きます。

  • 営業外収益(受取利息等)
  • 営業外費用(支払利息等)
  • 特別利益
  • 特別損失

④営業活動に関わるキャッシュの増減を計算

最後に、営業活動に関わる現金等の増減を計算します。

P/L(損益計算書)の売上高や売上原価等は総額です。現金等による取引だけではないため、B/S(貸借対照表)の下記の項目を確認します。

  • 売上債権(売掛金・受取手形)
  • 棚卸資産(商品等)
  • 仕入債務(買掛金・支払手形)

前期のB/Sと当期のB/Sを用意し、前期と当期の増減を計算します。その上で、下記リストに基づいて数字を加減すると、営業キャッシュフローの最終値が算出できます。

  • 売上債権や棚卸資産の増加:マイナス(現金等が未回収)
  • 売上債権や棚卸資産の減少:プラス(現金等を回収済)
  • 仕入債務の増加:プラス(支払が未到来)
  • 仕入債務の減少:マイナス(支払により現金等が減少)

キャッシュフロー計算書の作り方でよくある疑問2つ

計算方法がわかっても、理解がしづらい点があったかと思います。以下で、それについてご回答します。

①なぜ支払利息や受取利息を差し引くのか

利息を差し引くのは、(損益計算書(P/L)上の利息が実際の現金等の増減とは異なることがあるからです。

損益計算書の数字は未収利息や未払利息を含んでいます。

ですので、それ等を一旦取り除いた後、実際に現金等で受け取った額をプラスし、支払った額をマイナスします。

②なぜ減価償却費を加算するのか

減価償却費は、費用であるものの現金支出を伴わないものです。

間接法で計算に使う税引前NIは、減価償却費が控除された利益です。ですから、キャッシュフローを考える時には減価償却費を加算して除く必要があります。

【まとめ】直接法・間接法の違いを理解して自社に適したキャッシュフローを作成しよう

営業キャッシュフローには、2つの計算方法があります。双方を比較すると、以下のとおりです。

直接法間接法
計算方法 収入・支出を個別集計 税引前NIを加算・減算して計算する
メリット 詳細まで把握できる 作成が容易
デメリット 作成に手間がかかる 詳細は把握できない

それぞれにメリット・デメリットがあります。

キャッシュフローを詳細に掴みたい場合は直接法を、手間をかけずにある程度キャッシュフローを把握できればよい場合は間接法を。自社に合わせた手段をご検討ください。

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