「オフバランス取引」という 言葉をご存じでしょうか。
今回は、経営改善に効果的とされる資産と負債のオフバランス化について 解説していきます。オフバランス取引のメリット、デメリット、手法について、参考にしていただければと思います。
オフバランス取引とは? 意味をわかりやすく解説
「オフバランス取引」とは、正確にはオフバランスシート取引といい、貸借対照表(バランスシート)で管理されていない「帳簿外」の営業取引のことです。
貸借対照表は、損益計算書、キャッシュフロー計算書と並んで「財務三表」と呼ばれている、財務諸表です。
財務諸表は、決算書のうち金融商品取引法で上場企業等に作成が義務付けられている書類のことです。ほかにも、株主資本変動計算書、付属明細(すべて合わせて財務諸表)の作成、提出、監査が上場企業に義務付けられています。
※会社法で提出が義務付けられている書類はまた異なります。
オフバランス取引:賃借対照表に計上されない取引「簿外取引」
「オフバランス」とは、取引の対象となる資産や負債を、貸借対照表に反映しないようにすることを言います。「簿外取引」とも呼ばれます。
代表的な例としては、不動産の売却や、不動産の証券化があります。
また、金融市場において金利や為替の変動が大きくなったことも、オフバランス取引が必要となった理由です。
総称してデリバティブと呼ばれる、金融派生商品が誕生して取引されることになったのも、オフバランス取引が必要になった理由のひとつでしょう。
デリバティブについては、追ってご説明いたします。
このように、多彩なリスクに備えると同時に、金融市場の国際化・多様化により様々な金融技術を採用するために、オフバランス取引は用いられます。
近年は、不動産以外の資産の圧縮のためもオフバランス取引が採用されています。
オンバランス取引:賃借対照表に計上される取引のこと
「オンバランス取引」とは、貸借対照表に計上する会計上通常の取引です。
オフバランス取引とは、反対語・対照語となります。
近年、金融商品等をオフバランス化することによって、企業の経営実態の明確さに問題が生じてきました。
ステークホルダー(利害関係者)を守るために、企業の経営状態等の情報を開示することを、近年は「ディスクロージャー」と呼ぶようになりました。
利害関係者は透明性の高い情報を開示するよう、企業に求めています。
情報開示の要望の高まりから、以前はオフバランス取引が認められていた資産等が、オンバランス取引にされることも多くなっています。
オフバランス取引の例を紹介
前述の不動産やデリバティブに加えて、手形割引、保証債務やリース取引等は従来から、オフバランス取引として認識されていました。
1980年代ごろからは、先物取引、オプション、スワップ等のデリバティブによる新金融商品を企業が積極的に利用するようになっています。
これらは、未履行契約であるということからオフバランス化されてきました。
1.不動産売却や不動産の証券化
不動産が利益を生み出していない場合は、売却することが最も有効な手段です。
貸借対照表が改善されるだけでなく、不動産管理に関するコストも削減することができ、収益改善が見込めます。
不動産売却は、売り手により早期な売却や秘密裏の売却等数々の手法があります。
売却時期や最低売却額の調整等も、企業の要望に応じてそれに合った方法を採用します。
不動産の証券化とは、不動産から生じる賃料や売却益を原資として、社債や株式等の証券を発行する仕組みです。
この方法で、不動産所有者の貸借対照表から、対象となる不動産を除外します。
不動産に流動性と換金性を持たせる仕組みで、資産流動化型と資産運用型の2通りがあります。
2.金融先物取引
金融商品は、株価指数、債券、金利、通貨等の先物取引等があり、取引所で扱われています。投機的な目的だけではなく、リスクヘッジやリスクなしに利益を確定させる裁定取引等にも利用されています。
先物取引とはデリバティブのひとつで、将来の売買について、現時点では期日だけを決める取引のことです。現時点では、売買の価格や数量等を決めておいて、期日が来た時点で、売買を行います。
価格変動する商品の売買に対して、価格変動リスクを回避できるという利点があります。
3.先物外国為替
一般的には、為替予約と呼ばれている取引です。
為替レートの激しい変動が予想される場合は、対象となる通貨に対して、将来のある時点での売買を予約します。
これにより、円と米ドル等、外貨の為替変動によるリスクを回避するために使われています。
例えば、将来100ドルで輸入する商品があり、日本で15,000円で売れると決まっていたとします。その場合は、1ドル=140円で為替予約ができれば、将来の利益を確定することができます(貿易に掛る諸費用や関税を除いた計算上のものです)。
4.債務保証行為
債務者に信用力や十分な担保力がない場合は、債権者が債務保証を要求することがあります。
これは、借入れ、購入、賃借契約等、いかなる債務においても同じです。
債務保証行為とは、その返済や支払いの義務を、第三者が保証する行為のことです。
債務の支払いができない場合は、債務者に代わって第三者である保証人が返済(代位弁済)しなければなりません。
5.オプション取引
オプションとは、ある金融商品をあらかじめ定められた期日に事前に定めた価格で売買できる権利のことです。
その権利を売買する仕組みを、オプション取引と呼び、先物取引等と同じくデリバティブの一種です。
オプション取引は、買う権利のコールオプションと売る権利のプットオプションがありますが、買い手は権利を行使しなくても問題はありません。
但し、権利を買った代金は戻ってきません。
6.デリバティブ
「金融派生商品」とも呼ばれ、前述の先物取引、オプション取引、に加えてスワップ取引等がこれにあたります。
株式、債券、為替等の原資産から派生して生まれた金融商品で、少ない資金で大きな取引ができるため、ハイリスク・ハイリターン商品の代表です。
7.リース取引
リース取引とは、特定の物件の所有者が貸手となり、借手に対し、合意された期間にこれを使用して収益を得る権利を与える取引です。
使用収益とは、物を直接利活用して利益・利便を得ることをいいます。
借手は合意された使用料(リース料)を貸手に支払う取引のことです。
リース取引には、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引があります。
リース取引は法改正によりオフバランス化できない可能性が
2007年3月30日の「リース取引に関する会計基準(企業会計基準第13号)」により下記の様に定められています。
2008年4月以降の「所有権移転外ファイナンス・リース取引」に対してはオフバランス取引が認められなくなり、オンバランス取引に一本化されることになりました
ただし、「オペレーティング・リース取引」に関しては、引き続きオフバランス取引が認められています。
オフバランスができる条件を解説
- オペレーティング・リース取引
実質、賃貸取引であるか、売買取引に該当しないリース取引のことです。
物件の持つリース期間満了時点の価値( 残存価値)を、物件代金からその価値を差し引いた部分のみリース料とする仕組みです。
将来の価値にかかるリスクは貸手が負担するので、ファイナンスリースに比べてリース料が安くなるメリットがあります。 - 所有権移転ファイナンス・リース取引
資産を購入したのと同等の、売買取引に準じる取引のことをファイナンスリースといいます。
リース物件から得た利益は借手のものとなりますが、当該物件に付随する費用も借手の負担となります。また原則としてファイナンス・リース契約は途中で解除できません。
リース物件の所有権が移転するような、リース契約の内容もあります。
所有権が貸手から借手に移転するようなケースの取引は、「所有権移転ファイナンス・リース取引」といわれ、オフバランス取引が認められています。
オフバランス取引のメリットをわかりやすく解説
オフバランス取引では、貸借対照表上での負債を減らすことができるので、ROAを向上させ、企業の業績に高評価をもたらします。
ROAについては、後に解説します。
また、利益を生まない資産を減らすことも行いますので、その管理業務を減らすことができることもメリットです。
企業運営の効率化
資産の有効活用をして、「スリムな貸借対照表にすること」と「ムダな資産を持たないこと」が企業運営の効率化です。
流動資産と固定資産共に、それぞれの圧縮を目指します。
固定資産については、前述の不動産の売却や流動化で説明した通りです。
不要な流動資産の圧縮は、事業に必要な運転資金の圧縮に繋がります。
具体的には、下記のようなものが挙げられます。
- 業務上で必要な設備をリース
- 頻繁に使わないものをレンタル・オフィスを賃貸
- クラウドサービスの利用
- 業務のアウトソーシング
資産保有リスクの回避
オフバランス化は、資産価格の変動リスクから解放されることが メリットです。
企業が資産を所有することは、企業自体の評価を上げる効果がある半面、資産を取得する場合に債務を伴った場合は、負債のリスクも生じます。
資産がそのまま負債リスクになるような、大きな資産でなくても保有資産の価値が変わらないわけではありません。
資産を保有しないことで、必要な時により小額から必要なサービスを導入することが可能です。
ROAの改善・企業評価の向上
オフバランス化し資産として計上するものが少なければ、貸借対照表はシンプルに整理されて企業の経営状態を把握しやすくなります。
オフバランス化により総資産が減少すれば、同じ当期純利益に対してROAが上がります。
ROAとは、総資本利益率のことです。
ROAについてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>ROAとはどんな指標か? ROEとの違いや高めるための2つの方法
ROAは資産全体に対して、どれだけの利益が生み出されているのかを示す指標のため、高ければ高いほど効率よく利益を出していることになります。
企業の収益性を表す指標が改善することは、対外的に評価の高まりに直結します。
オフバランス取引にはデメリットもある
デリバティブ取引は、金融商品会計基準が導入される以前の日本では、オフバランス取引でしたが、現在はその時価評価差額としてオンバランス化されるようになりました。
オフバランス取引が、粉飾決算の温床であったことも事実です。
また、オフバランス化とオンバランスでの業務のコストの比較感の問題もあります。
結果的にコストが高くなる可能性
オフバランス化により、貸借対照表は簡素化されますが、それは資産をオフバランス化するケースが多いです。
資産が少ないということは、直接現金化できるもの、または借入余力が少ないということになり、新規資金調達に対するコストアップに繋がります。
また、リースは返済に対するような利息はありませんが、形を変えて手数料が含まれているので、結果的に割高になる可能性もあります。
レンタル、クラウド、アウトソーシングについても、専門分野を社外で効率的に行うという目的は達成できますが、一概にコストが安くなる保証はありません。
粉飾決算として悪用されるリスク
オフバランス化が粉飾決算の温床となりうる場合があることも、考えておかなければなりません。
海外事業の失敗で発生した損失を特別目的会社に逃がす簿外債務、 売上の水増し等の粉飾決算が発覚した、エンロンの巨額不正会計事件等の例もあります。
オフバランス化はときには、貸借対照表に記載されない取引があることで、経営の実態が隠されてしまうことがあります。
オフバランス化は、あくまでも健全な企業の経営体質改善をするために活用されるものです。
企業の対外的な評価だけに焦点を当てた運用は避けられるべきです。
まとめ
オフバランス取引とオンバランス取引について解説しました。
オフバランス取引には、下記のようなものがあります。
- 不動産売却や不動産の証券化
- 金融先物取引
- 先物外国為替
- オプション取引
- デリバティブ
- リース取引
オフバランス取引には次のようなメリットがあります。
- 企業運営の効率化
- 資産保有リスクの回避
- ROAの改善・企業評価の向上
資産のオンバランス化、オフバランス化は、会計上極めて重要な問題です。
オンバランス取引とするべき資産や負債をオフバランス化してしまう行為は、犯罪行為に該当します。
しかし、会計上のルールの範囲内でオフバランス化を進めることは、貸借対照表に計上される資産・負債の額を減らすことができるという点がメリットです。
ですから、自己資本利益率や総資産事業利益率のような財務指標を改善できる可能性があります。