2023年10月1日からインボイス制度が導入されます。
免税事業者、課税事業者、どちらにも影響のある制度です。導入後は経理面においても負担になることが考えられるため、導入前に内容を詳しく理解しておくことが大切です。
こちらの記事では、制度導入による経過措置と、導入前の準備について詳しく解説していきます。
インボイス制度の導入によって変わること
生産、流通、各取引で2重3重に消費税を支払うことがないようにするための措置が「インボイス制度」です。
インボイス制度の導入によって「仕入税額控除の条件」が変わります。
条件が変わると控除を受けられなくなる可能性もあるため、要件を正しく把握することが必要です。
適格請求書(インボイス)の保存が仕入税額控除の条件に
仕入税額控除を受けるための条件は以下の通りです。
【書類の記載事項】
現行の請求書記載内容にプラスとなるのは以下の項目です。
- 登録番号
- 適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
ひとつの書類だけで要件を満たす必要はなく、請求書や納品書等の関連するものと合わせて要件を満たすことで適格請求書とすることが可能です。
【保存期間】
- 帳簿:帳簿を閉鎖した日から7年間
- 請求書:請求書を受理した日の課税期間の末日の翌日から、2カ月を経過した日から7年間
適格請求書は事前に登録した課税事業者でなければ発行できない
「適格請求書発行事業者」になるためには、適格請求書発行事業者登録の申請を済ませておく必要があります。
登録申請は既に始まっており、期限の2023年3月31日までに申請が必要です。
この期限を過ぎてしまうと、2023年10月1日からの発行分に間に合わなくなります。
売手側事業者は登録と請求書の様式変更の準備が必要
管轄の税務署で適格請求書発行事業者申請をした後に、登録番号を取得します。
【現在の様式】
- 請求書発行業者の氏名または名称
- 取引年月日
- 取引の内容
- 税率ごとに区分して合計した対価の額
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
【現在の請求書に追加するもの】
- 登録番号
- 適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
これらの変更には制度の中身をよく理解したうえで行う必要があります。
新しい様式の準備は、時間に余裕を持って準備をすることが大切です。
買手側事業者は売手がインボイスに登録(予定)しているかを確認
売手側がインボイスに登録をしていない場合は、請求書が発行できません。
そのため、買手側となる事業者は取引先への確認が必要です。
売手が免税事業者であれば登録の対象とはなりませんので、今後課税事業者になる予定があるかを確認しておくのがよいでしょう。
ただし、インボイスに登録していない免税事業者からの仕入れでも、控除が全く受けられないわけではありません。
制度が開始されてから経過措置が取られています。
経過措置期間と控除額
3年間は8割、その後の3年間は5割が控除されます。
取引する業者が免税事業者と課税事業者に分れる場合は、帳簿や帳票等の管理も別々に行うことになり、以前の事務処理に比べて煩雑になることも考えられるでしょう。
免税事業者が売手となる取引では買手は仕入税額控除を受けられない
インボイスを発行するのは売手側です。そして、インボイスを発行できるのは適格請求書発行事業者登録を受けた課税事業者だけです。この適格請求書発行事業者登録を申請できるのは課税事業者だけであり、免税事業者は申請することができません。
買手側も同じ免税事業者ならば、仕入税額控除を行わないため、今までの取引と変わりありません。買手側が課税事業者の場合は控除を受けられなくなります。しかし、一定の期間、一定の割合の控除が受けられるよう措置がとられています。
ただし、この期間を過ぎると控除は受けられなくなります。
主要な取引先であれば、お互いに相談が必要となるでしょう。
詳しくは以下の記事を参照ください。
>>インボイス制度で変わることは?適格請求書の書き方・準備を解説
>>インボイス制度が事業者に与える影響について事業者別に解説
インボイス制度開始にあたっては2つの経過措置がとられてい
制度導入後にすべての効力が発揮されるわけではありません。段階的な措置が取られています。
- 免税事業者からの仕入でも6年間、一定の割合の控除が受けられる
- 免税事業者が課税事業者になるための登録申請に関する届出の免除
1.免税事業者がインボイス制度に登録するにあたっての経過措置
登録申請書を届ける必要があります。通常は課税事業者になってから行う手続きですが、経過措置期間中ならば省略が可能です。
免税事業者が適格請求書を発行するためには課税事業者になる必要がある
課税期間が始まる前日までに税務署に届出をしなければいけません。
そこからインボイス発行事業者の登録を申請する必要があります。
ですが、免税事業者でも登録の申請を行い、課税期間内に登録を受けると課税事業者選択届出書を提出する必要はありません。
通常課税事業者になる効力の開始は翌課税期間から
課税されるのは通常1年後です。
ですが、経過措置期間内に登録した場合は登録した時点で消費税納付の対象となります。
売上がこれまでと変わらないようであれば、消費税の分だけマイナスになってしまう危険性もあるため、登録するかどうかの判断は重要です。
免税事業者のインボイス制度の登録にあたって書類を簡略化できる経過措置
免税事業者でも登録の申請を行い、2023年10月1日を含む課税期間中に登録を受けると「課税事業者選択届出書」を提出しなくてもよいことになっています。
ただし、期限を過ぎてからの申請には適用されないため、注意が必要です。
2.取引先が免税事業者である場合の仕入税率控除の経過措置
課税事業者以外から仕入れたものに関しては、税率の控除を受けることができなくなるため、注意が必要です。ただし、一定期間においては課税仕入れに対して、一定額が控除される期間が儲けられています。
仕入税額控除が一定割合の減額で受けられる措置が取られた場合
企業の負担を少なくするために段階的な措置が設けられていて、3年ごとの計6年間、課税仕入れの仕入れ税額相当が控除されます。
ただし、この措置を受けるためには以下のことが必要です。
- 区分記載請求書と、その他帳簿の保存
- 措置を受けると記した帳簿
3年ごとに減額・控除の割合は80%と50%の2つ
控除は段階的に実施されます。
- 最初の3年間は仕入れ税額相当の80%
- 次の3年間は仕入れ税額相当の50%
合計6年間、それぞれの控除が可能となります。
上記にも記載しましたが、この措置を受けるためには以下のことが必要となります。
- 区分記載請求書とその他帳簿の保存
- 措置を受けると記した帳簿
仕入税額控除の減額・今後のスケジュール
制度導入後は段階的に措置がとられるため、課税事業者以外からの仕入れであっても、仕入れに関わる消費税は一定の割合で控除が可能となります。
では、経過措置期間が過ぎた場合はどうでしょうか。
2029年10月からは控除が不可となるため、それまでに取引先との相談等が必要になります。
インボイス制度経過措置で仕入税率控除に減額がある場合の仕訳
課税事業者以外からの仕入れで発生する消費税額は、全額が控除されるわけではありません。
このため、免税事業者からの仕入れ分と納税計算の方法が異なるため帳簿等を分けて管理する必要があります。
今までの事務作業よりも煩雑化するのが予想されるでしょう。
一般的な費用を仕訳する場合
経過措置期間中でも控除されるのは、仕入れから発生する消費税額の80%(最初の3年間)です。
では残り20%は、どのような科目で仕訳をするのが正しいのでしょうか。
一般的な費用の仕訳方法:その1
「課税事業者以外から消耗品を、10,000円の現金で購入した場合」
●現行の仕訳
(借方) | (貸方) |
---|---|
消耗品10,000円 仮払消費税等1,000円 | 現金11,000円 |
現行の仕訳との違いは以下になります。
●導入後の仕訳
(借方) | (貸方) |
---|---|
消耗品10,200円 仮払消費税等800円 | 現金11,000円 |
この仕訳では控除にならない20%部分を費用項目に上乗せする方法です。
一般的な費用の仕訳方法:その2
控除できない20%分を費用として計上する他に、決算時にまとめて雑損失として計上する方法があります。
●取引時の仕訳
(借方) | (貸方) |
---|---|
消耗品10,000円 仮払消費税等1,000円 | 現金11,000円(適用:80%控除対象) |
取引時には現行と同じ仕訳ですが、課税事業者からの仕入れ分と区別するために適用を記載する等の工夫が必要です。
●決算処理
(借方) | (貸方) |
---|---|
雑損失200円 | 仮払消費税等200円 |
このように控除対象外部分を購入時に費用項目に振り替える方法と、決算時にまとめて雑損失として処理する2通りの方法があります。
減価償却資産を購入して仕訳をする場合
「課税事業者以外から建物10,000,000円を購入し、減価償却費の計算方法は定額法で耐用年数は20年とした場合」
●取引時の仕訳
(借方) | (貸方) |
---|---|
建物10,000,000円 仮払消費税等1,000,000円 | 未払い金11,000,000円 |
●決算処理
(借方) | (貸方) |
---|---|
減価償却費500,000円 雑損失200,000円 | 建物500,000円 仮払消費税等200,000円 |
1,000,000円×20%×1/20=10,000円
決算時に雑損失とした200,000円ー10,000円=190,000円
190,000円が償却超過額となり法人税の申告書に記載する必要があります。
インボイス制度で仕入税額控除の経過措置を受ける場合に必要な準備
仕入れ税額控除を受けるための書類が必要です。
- 区分記載請求書
- 仕入明細書(必須記載事項が記載されている)
個々の取引ごとに「80%控除対象」「免税事業者からの仕入れ」等、控除の適用対象になる旨がわかる記載が必要です。
仕訳や計算方法の確認・帳簿等記録の仕方の検討
制度導入後は、取引先が課税事業者か、それ以外かによって消費税の仕訳が違ってきます。
それぞれに分けて仕訳をする必要があり、帳簿も区別して記載しなければなりません。
仕訳の適用や帳簿に「経過措置の〇%」等を記しておくだけでは、消費税納付額計算時には大変な作業になると予測されます。
このため、今までの会計処理をスムーズにするための見直しが大切です。
会計システム等を導入している場合は対応できるかの確認
会計処理では会計ソフトを使っている企業も多いでしょう。
制度導入後はこれまでと仕訳の仕方も変わってくるため、あらかじめ入力作業の変更を確認することが大切です。
そのままの状態で使っていてよいのか、バージョンアップが必要か等を調べるとともに、インボイスが導入されている会計ソフトの導入を考える必要があります。
インボイス制度で知っておきたい例外になるケースや「適格簡易請求書」
事業の性質上、請求書を発行することが難しいとされる事業者には、記載事項を省略した簡易請求書、または請求書の発行を必要としない取引があります。
買手事業者に適用・例外とされるケース
一定の事項を記載した帳簿があれば請求書を必要としない取引があります。
- 3万円未満の公共交通料金
- 出張費、宿泊費等
- 入場券(簡易請求書の記載事項が記されたもの)
- 質屋が買い受ける質草
- 郵便ポストに入れる郵便物
- 3万円未満の自動販売機の商品
- 再生資源の購入
- 適格請求書発行事業者ではない宅建業者からの建物の購入
- 古物業者からの古物購入
- 通勤手当
売手事業者に適用・適格請求書なしでよいケース
- 3万円未満の公共交通料金
- 卸売市場における生鮮食料品等の譲渡
- 農協等に委託して行う農林水産物の譲渡
- 3万未満の自動販売機での販売
- 郵便ポストに入れる郵便物
以上の項目が発行を免除されるケースになります。
一部の業種に適用となる適格簡易請求書
不特定多数の顧客が存在するような業種には、簡易インボイスの発行が認められています。
省略が認められる項目
- 受領者の氏名の記載不要
- 適用税率または税率ごとの対価の額、どちらかの記載があればよい
適用される業種
- 小売業
- タクシー業
- 飲食業
- 写真業
- 旅行業
- 不特定多数の顧客が使う駐車場
- その他、これらの事業に準ずる不特定多数の者に資産の譲渡を行う事業
インボイス制度の開始はこれから・経過措置等国税庁の動向に注意を
これから始まるインボイス制度ですが、経過措置はあるものの従来は控除できていたものができなくなるケースもあります。
このままいくと、免税事業者からの仕入れでは消費税の控除が受けられないため、取引を見直す課税事業者がでてくることも考えられ、免税事業者にとっては深刻です。
今のところ経過措置は6年間ですが、終了後は控除不可というのが現段階での見通しです。今後変更があるのか国の動きに注意が必要でしょう。
まとめ
インボイス制度導入によって現行との事務処理が大きく変わります。
適格請求書記載は記載事項がきちんと記されていないと適用されませんので、内容を今から把握しておくことは重要なポイントです。
また経過措置期間の仕入れの消費税は、仕訳や帳簿の記載等、事業者ごとに異なるため煩雑になるのは避けられないでしょう。
今から帳簿やフォーマットの見直し、会計ソフトも対応が可能かどうか等の準備が必要です。