インボイス制度に反対の動き|今から廃止になることはあるのか?

インボイス制度が導入されると、免税事業者である年収1000万円以下の中小企業やフリーランスだけでなく、彼らと取引のある発注者側にも大きな影響を与えます。

制度の概要に対して反対する声が多いのが現状です。

そこでこの記事では、インボイス制度が反対されている背景や、インボイス制度の準備の流れについてご説明します。

目次

インボイス制度に対して反対・廃止を支持する団体の動向

日本出版協議会からインボイス制度反対声明の発表

著者・ライター・編集者・校正者・デザイナー・カメラマンといった多くの専門性を持つ人材が関与している出版業界からインボイス制度への反対の声が挙がっています。主な理由は次のとおりです。

  • 消費税控除に必要な適格請求書を発行できるのは課税事業者のみのため、現在免税事業者であるフリーランスにも課税事業者として発行をお願いせざるを得ない。年収1000万円以下の免税事業者が排除されかねない。
  • 仕入側としてもこれまで免税されていた分の消費税を出版社側が負担するのは困難。また、仕入の際に控除できるかの判定や税率記載が正しいかの確認作業等の事務負担が増加する。

立憲民主党によるインボイス制度廃止法案の提出

立憲民主党は2022年3月30日に廃止法案を提出し、インボイス制度の導入に反対しています。主な理由は次の通りです。

  • 特に中小企業や零細企業にとって、書類の発行や保存が大きなコストになり、取引から排除されたり値下げ圧力を受けかねない。また、企業に所属せず働く人やシルバー人材センターの人材にとっても大きな負担である。
  • 消費税の負担が増し、賃金・所得を上げることを目指す岸田政権の「新しい資本主義」とも矛盾する。

立憲民主党は、非常に多くの方々が影響を受ける制度であるが認知が十分でないと危機感を持っています。

政党を超えた「インボイス制度は実施中止・廃止に! 国会内アクション」

2022年4月22日には、「インボイス制度は実施中止・廃止に! 国会内アクション」が開かれました。税理士・イラストレーターをはじめとして約100人の参加と132箇所からのオンライン参加があり、次のような声が挙がっています。

  • イラストレーターにとっては、免税業者のままでは仕事が来ない。課税事業者になれば生活費を削ることになる。
  • 飲食店では、 コロナの影響も続く中で消費者の負担が大きい。
  • 建築業界でも資材の高騰もあり厳しい業界で、消費税を負担できない業者が廃業に追い込まれる。

反対・廃止が求められる「インボイス制度」の概要とは?

インボイス制度は軽減税率導入と共に決まった仕入税率控除の仕組み

2019年の軽減税率の導入とともに始まった、消費税の納付をより確実なものとするための国の施策です。制度の中では、買手は売手から受けた適格請求書を保存することで仕入控除が受けられます。

売手が仕入控除に必要な適格請求書を発行するためには登録番号が必要です。登録番号を得られるのは制度に登録して番号を取得している課税事業者のみ。免税事業者との取引では発注者は消費税の仕入控除を受けることができず、税負担も増加します。

インボイス制度導入で仕入税額控除はこれまでと何が違うのか?

インボイス制度の導入により、消費税に関する仕入税額控除の手続きはより複雑になるとされており、発注側・受注側ともに影響があります。今回の変更によって手続きや書類がどのように変わるのかこれまでと比較してみましょう。

これまでの制度「区分記載請求書等保存方式」

インボイス制度導入前の「区分記載請求書等保存方式」では、仕入税額控除を受けるための登録は必要なく、発注側は売上の消費税から仕入れの消費税を差し引いた金額を納税するのみでした。また、商売規模の小さい免税事業者に関しては消費税の納税が必要ありませんでした。

一方で、今回の制度導入では、消費税の控除に必要な適格請求書を発行するには登録が必要で、その登録を免税事業者はすることができません。そのため免税事業者が取引から排除されかねないだけでなく、発注側は受け取った請求書の内容確認や保存が大きな手間・コストとなります。

インボイス制度の導入で変わること

インボイス制度の導入により、適格請求書がなければ仕入税額控除が受けられなくなります。そのため、発注側が売上の消費税をそのまま納付する必要が出てきてしまい、発注側にとって大きなコスト増です。

消費税の納付が厳しい発注側の中には個人事業主や中小企業等の免税業者との取引を停止したり、消費税分の値下げを要求したりするケースもあるでしょう。

インボイス制度の導入により個人や中小企業等の免税業者の中には取引から除外されてしまうケースも多く発生すると予想され、発注側にも受注側にも大きなリスクがあります。

反対・廃止が求められるインボイス制度・その問題点とは?

買手となる事業者にとって問題点は2つある

今回の変更は免税対象の小規模な事業者だけでなく、免税業者である小規模事業者と取引をする買手側にとっても問題点があります。買手側も制度を理解し、ビジネスの流れや手続きを再構築していくことが必要です。

1.インボイス制度に未登録の取引先との今後を検討する必要がある

免税事業者は仕入税額控除に必要な適格請求書を発行できないため、買手側は仕入取引でかかった消費税を国に納める必要があります。

これまでは免税業者と取引した場合には仕入分の消費税を控除できましたが、制度導入後は免税業者との取引で発生する消費税は控除を受けられなくなります。

企業の中には、制度未登録の取引先との取引を停止することを検討している企業もあり、検討が必要です。

2.インボイス制度の開始により経理事務の煩雑化が懸念される

制度の開始によって制度登録済み事業者と未登録事業者が混在している状態となるため、仕入税額控除の有無を分けて処理する必要があり、より取引が煩雑となります。また、適格請求書では、 発行者の名称や登録番号・ 税率ごとの取引金額等、記載するべき内容も増加します。

経理担当者が不足している場合には増員したり、税理士や会計士といった外部の機関への問い合わせが必要となってコストが増えるケースも考えられるでしょう。

売手となる事業者にとっては大きな問題点が3つある

制度の変更は、年収1000万円以下で免税事業者である中小企業や個人事業主等に与える影響が非常に大きく、様々な問題点が指摘されています。中でも指摘されている大きな問題点は次の通りです。

1.取引先がインボイス制度に登録した事業者とだけ取引を始めるという懸念

もし売手側が制度に登録していないと、買手業者は仕入税額控除を受けられません。自ら消費税を納める必要があり、税負担が増加してしまいます。また、制度登録済みの企業と制度未登録の企業が混在すると事務手続きが増加すると予想されます。制度登録済みの事業者のみと取引する企業も増えるでしょう。

このような状況が、”売手側と買手側で消費税負担を押し付け合いになる”と反対の声が挙がっている理由です。今後は制度未登録の小規模事業者が淘汰されていってしまう可能性もあります。 免税事業者の中には取引先が減少して経営が難しくなる企業も増えるでしょう。

2.インボイス制度に未登録のままでは売上が減ることが懸念される

買手がインボイス制度登録済みの企業のみと取引を始めるようになった際には、制度未登録の事業者に対する仕事の発注が減る可能性が懸念されます。売上が減少し、廃業を余儀なくされてしまう業者も増えてくるでしょう。

また、取引が続けられたとしても、インボイス制度未登録の事業者は取引先から仕入消費税分の減額を求められる可能性もあります。受注する案件の単価が下がってしまうため、こちらの場合も売上減少や経営悪化につながってしまうでしょう。 

このように、今回の変更は小さな規模の企業の経営にとって特に厳しい制度です。

3.免税事業者がインボイス制度に登録するには課税事業者になるしかない

インボイス未登録の事業者は課税事業者にならないとインボイス制度に登録できないため、次の2つの選択肢となっています。

  • 制度未登録のままでいる。ただしその場合は、買手側が仕入税額控除を使えないため、取引先から排除されたり値下げを要求されるリスクがある。
  • 制度に登録し、これまで免税となっていた消費税を自ら納める。 

免税事業者となってるのは、一般的に売上1000万円以下の中小規模の事業者です。売上が減少する場合も消費税を自ら納める場合も、どちらも経営に与えるインパクトは大きく、苦渋の決断を強いられるでしょう。

インボイス制度は今から延期・中止・廃止になることはあり得るのか

インボイス制度には反対の声も多く挙がっており、延期・中止・廃止があるのか今のところ明確には決まっていません。

しかし、政府としては今回の変更は2019年に消費税率を10%に引き上げた時からの既定路線であり、制度に関するルールや体制作りも進められています。また、大企業の中には取引先に免税業者がほぼ存在しない企業もあり、既に制度登録事業者との取引に切り替えている企業もあります。

このような状況から、インボイス制度が今から延期・中止・廃止になることは考えにくいです。制度導入のインパクトは大きく事務作業も煩雑化するため、事業者としては制度が予定どおり始まると見込み、準備を始める方が得策と言えるでしょう。

インボイス制度への準備として必要なこと

買手事業者に必要な準備

売手側が適格請求書発行事業者であるかどうかによって、消費税の控除の対象となるかが異なってくるため、まずはその確認が必要です。消費税の自ら負担するのか、売手側に転嫁するのか、そもそも取引を継続できるのかについても判断が必要です。

また、制度では請求書への記載事項も多く経理事務が煩雑になることからその対応への検討も必要です。

買手事業者に必要な準備についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

>>インボイス制度で変わることは?適格請求書の書き方・準備を解説

売手事業者に必要な準備

売手側は、制度に登録するかの判断が必要で、登録する場合は次のような手順を取る必要があります。

  • インボイス制度登録の手続き
  • 適格請求書の発行に向けて、制度を理解し請求書様式を事前に変更する
  • 経理処理で変更が必要な箇所を把握し、業務フローを作成する

売手事業者に必要な準備についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

>>インボイス制度を発行するには登録が必要! 期限や手続きを解説

インボイス制度による経理事務の煩雑化には業務効率化で対応を

制度の導入により、制度登録済み企業であるかの確認や請求書に記載が必要な事項が増えます。売手側も買手側も経理事務が煩雑になることが予想され、従来のフローでは対応できなくなる可能性もあります。

ますます重要になる経理業務効率化にあたっては、電子化やシステム導入がおすすめです。

効率化を進めることで、請求書の発行や受取、記帳や支払といった重要な経理業務をこれまで以上にスムーズに進めていくことができるでしょう。

【まとめ】廃止は非現実的! インボイス制度に向けた準備を進めよう

インボイス制度の導入により、規模の小さな免税業者の経営が厳しくなったり、売手、買手双方にとって事務負担が増したりすることが考えられます。そのため、政界からも経済界からもインボイス制度に反対する声が挙がっているのが現状です。

一方で、インボイス制度の導入は軽減税率が導入された2019年から政府の中では既定路線となっており、その廃止は非現実的と考えられています。

インボイス制度の導入により経理業務はより複雑化・煩雑化されると考えられるため、制度への対応を含め経理業務全体を見直し、効率化をより一層進めていくことが重要です。

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oneplus編集部

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