新しく導入されるインボイス制度の開始日が、着々と近づいてきています。
- 「そもそも消費税はどのように計算されているのか?」
- 「制度導入の目的、内容はどうなっているの?」
- 「どのような影響が出ることが考えられる? また影響の大きい業種は?」
そこで今回の記事では、上のポイントについて解説していきます。
- 1 インボイス制度の影響を知るために前提の消費税等の制度を押さえよう
- 2 インボイス制度導入の一因・消費税制度の仕組みとは?
- 3 インボイス制度を導入する目的は?
- 4 各所への影響が大きいと言われるインボイス制度の内容とは?
- 5 【事業者別】インボイス制度導入で生じる影響
- 6 インボイス制度の影響が大きい業種は?
- 7 仕入税額控除が受けられない可能性のある業種は?
- 8 それぞれの立場でインボイス制度への対応を検討することが必要
- 9 【まとめ】知識を取り入れてインボイス制度による影響に備えよう
インボイス制度の影響を知るために前提の消費税等の制度を押さえよう
インボイス制度が導入された後、どのような影響が出てくるのかをお伝えする前に、下記3つについて紹介していきます。
- 制度が導入される一因となっている消費税について概要を把握する
- なぜ制度が導入されることになったのか? 目的を知る
- どのような内容であるのか、制度自体について理解する
制度の全体像を理解することで、導入後に生じるであろう影響についてわかりやすくなるでしょう。
インボイス制度導入の一因・消費税制度の仕組みとは?
売上にかかる消費税から仕入れの消費税を差し引いた分を納税する仕組み
納めなければいけない消費税の金額を割り出す方法は「一般」「簡易」の2種類が存在するのですが、この記事においては「一般課税」と仮定して、どのように割り出されるのかを紹介します。
毎期、「売上時に取引先から一旦お預かりしている消費税の総額」から「仕入や経費等で支払いをした消費税の総額」を差し引いて割り出されます。
売上高が200万円(税抜)、支払(仕入や経費)が30万円(税抜)と仮定した時に納める金額は、下記の通りです。
200(売上)×10%(消費税率)ー30(仕入や経費)×10%(消費税率)=17万円(納める消費税額)
納税するのは売上高1,000万円以上の課税事業者
納付すべき消費税の割り出し方を紹介しましたが、すべての企業が消費税を納めている訳ではありません。
納税義務が発生するのは、年間の売上高が1,000万円を超えた企業と個人事業主です。
また売上高が1,000万円を超えた場合でも、その瞬間からすぐに納める義務が生じるのではありません。「売上高が1,000万円を超えた期の2期後」また「1月1日〜6月末日までの売上高が1,000万円を超えた期の翌期」から、納める義務が生じるので注意しましょう。
売上高1,000万円未満の免税事業者等にとっては益税となっていた
それでは売上高が1,000万円に届かない企業は、どのように取り扱っているのでしょうか?
そもそも消費税を納める義務が生じていないので、企業内に留保しておくことが可能です。それは企業にとっては、益税になっていることを意味します。
日本経済新聞によれば、年間数千億円が納める義務の生じない益税として、企業に蓄積されているそうです。
インボイス制度を導入する目的は?
消費税10%と軽減税率8%の取引を明確にし保存する 200
インボイス制度を導入する目的のひとつに、現在2つある10%と8%の取引を明確に区別して計算を行った上で、資料を保存しておくことが挙げられます。
取引を区別しておくことで、取引に対する透明性を高めることができるでしょう。また、税率を分けることで、それぞれの税率についてより正確に処理を行うことが期待されています。
消費税制度で生じていた益税による不公平を解消する
また先述の通り、売上高が1,000万円に満たない企業は消費税を納める義務がないので、益税として留保しておくことができます。
これは納税している企業からすれば、不公平に感じてもおかしくありません。
インボイス制度を導入することで、法人や個人を問わずに登録した事業者から幅広く納税してもらい、不公平の解消を目指しているのでしょう。
各所への影響が大きいと言われるインボイス制度の内容とは?
2023年10月から始まる適格請求書の交付と保存の制度
この新しく始まる制度は、2023年10月からスタートする予定です。
請求書に記載しなければいけない事項が決められているため、どれかひとつの情報が欠けているだけでもインボイスとして認められません。また請求書を発行する側も受け取る側も、どちらも保存しておくことが求められるようになります。
買い手が受け取るのが適格請求書でないと仕入税額控除を受けられなくなる
インボイス制度が始まった後は、支払時に受け取る請求書が適格請求書でなければ、仕入税額の控除を受けることができなくなるので注意が必要です。
控除が受けられないことは、消費税の支払額が増えてしまうことを意味します。今まで取引を行っている企業または個人が、インボイスの発行が可能な事業者であるのかどうか、確認する必要が出てくるかもしれません。
適格請求書の発行ができるのは条件を満たした適格請求書発行事業者
要件を満たした請求書を発行しさえすれば、制度上なんの問題もなくインボイスとして認めてもらえる訳ではありません。「適格請求書発行事業者」として登録される必要があるのです。
そのため、税務署に登録申請書の提出を行いましょう。審査を無事に通り、登録番号が公表されれば登録が完了です。
また制度のスタートと同時に登録事業者として行動するためには、2023年3月31日までに登録申請を行わなくてはいけないので注意しましょう。
【事業者別】インボイス制度導入で生じる影響
課税事業者である企業に生じる影響は大きい
インボイス制度がスタートした後は、免税事業者から仕入等を行った場合は、仕入税額の控除を一切行えなくなります。消費税の納税額を増やさないためにも新規の取引先を探さなければいけなくなる可能性も出てきますし、生じる影響は大きいでしょう。
売り手側の課税事業者はインボイス制度に登録する手間がかかる
既存の販売先と制度開始後も継続して取引を行ってもらうため、登録を求められる可能性も出てくるでしょう。スタートと同時に登録事業者として動けるようになるためには、期限内に税務署に登録申請を済ませておかなければなりません。
なお、申請時に行うことは下記の通りです。
- 国税庁のホームページより申請書をダウンロードし、必要事項に記入
- 申請書を紙で郵送する場合は「インボイス登録センター」に、インターネット上で行う場合はe-Taxを利用
また制度の規則に沿った請求書作成を行わなければいけないので、担当者にとって相当な手間になります。また、スタート後に混乱しないように、事前に社内でしっかりと情報共有していく必要が出てくるでしょう。
適格請求書を発行できない免税事業者等との取引で消費税負担が重くなる
一方、インボイスを受け取る側として取引先を選択する必要が出てくるかもしれません。先方がインボイスを発行できない場合は、仕入税額の控除を受けることが不可能になるからです。結果として、決算時に納めるべき消費税の金額が増えてしまいます。
発行可能な業者と新しく取引を行うべきかの検討も必要になるでしょうし、いざという時のために候補を今から選定しておいた方がいいかもしれません。
適格請求書か否かを選り分けて経理を進める等業務が煩雑に
仕入税額の控除を受けるため、適格請求書かどうかを選別しなければいけなくなります。今までは行わなくてもよかった作業が増えるので、経理担当者には負担になることが予想されるでしょう。導入前に社内ルールを取り決め、スムーズに移行していけるように準備を進めていく必要があるかもしれません。
免税事業者では取引相手が課税事業者だと影響が大きいとの危惧も
請求書を発行する側の立場として考えた場合は、売り先となる取引相手が課税事業者だとより影響が出てくるかもしれません。しかもそれが大口の取引先であるほど、自社にとって大きな影響となってしまうので注意が必要です。
適格請求書が発行できないと取引が減る可能性がある
まず考えられる事として、適格請求書の発行ができないと継続して取引を行ってもらえなくなる可能性があります。先方からしたら、仕入税額の控除を行えない相手と取引を行っていくメリットがあまりないからです。
また、取引が無くならなくても、消費税分を減額して請求するようにお願いされる可能性も出てくるでしょう。それは売上の減少に繋がるので、取引先の減少と同じくダメージを受けます。
課税事業者になって適格請求書を発行できるよう対応する必要がある場合も
既存の販売先と継続して取引を行ってもらうため、適格請求書の発行を行えるようにする必要が出てくるかもしれません。それはすなわち課税事業者になることを意味するので、今まで支払わなくてもよかった消費税を納める義務が生じることになります。
消費税を払って取引を維持するか・免税を維持して取引が減るか
結論として、選択できる道は2つしかありません。
「消費税の支払いは必要になりますが、今まで通りに取引を継続してもらえるように制度の登録申請を行う」または「既存の販売先との取引が消滅してしまう可能性はあるが、消費税の支払いについては免税のままでいる」のどちらかです。
簡易課税事業者にも影響は生じる
中小零細企業の事務負担を軽減させることを目的に行われている簡易課税の制度ですが、今後は免税の事業者と同じように影響が生じてくるでしょう。先述の益税が発生していると指摘されていることも理由のひとつかもしれません。
インボイス制度における簡易課税の取り扱いは言及されていない
新しい制度の下で簡易課税がどのように取り扱われるかについては、まだ公表されていません。しかし簡易課税を選択している事業者は120万社あると言われており、制度の導入後も現行通りでインボイスが適用されることはありません。また先述の益税が発生しているとの指摘もあり、制度を厳格に進めるためにも何かしらの動きがある可能性はあるでしょう。
簡易課税制度は今後廃止か縮小の方向で検討されている
簡易課税制度は、廃止または縮小の方向で検討されています。縮小の例としては、みなし仕入率の変更が考えられるのではないでしょうか。
軽減税率が導入された時には、不動産業等一部の業種で変更が行われています。今回また新しい制度が導入されるので、このタイミングで変更があってもおかしくありません。
インボイス制度の影響が大きい業種は?
建設業のいわゆる一人親方
一人親方を営んでいる方は、年間売上が1,000万円以下で免税事業者が多いのではないでしょうか。インボイス制度が導入されることによって、インボイスを発行できる親方が選ばれ、そうではない親方は仕事を失ってしまう可能性も出てきてしまいます。
また、もし課税事業者になっても今まではなかった消費税の負担が出てくるので、どちらの方向性で進んでいくべきかを考える必要があるでしょう。
個人事業主(フリーランス)
一人親方と同様に、フリーランス等の個人事業主にも大きな影響を及ぼすでしょう。インボイスの発行ができないことを理由に、取引の停止や取引金額の減額を要求されることが出てくるかもしれません。
仮にインボイスを発行できないとしても取引を継続してもらえるような、他者では変え難い存在になる必要があるのではないでしょうか。
仕入税額控除が受けられない可能性のある業種は?
仕入税額の控除を受けられない可能性がある業種としては、下記項目に該当する場合が考えられます。
- 商品や材料等の購入を全く行わない
- 機械、車両、パソコン等の備品類の購入を行わない
- 広告宣伝費や電話代等の通信費、家賃や水道光熱費の支払いが生じない
- 事務用品や書籍等の購入を必要としない
- 会社で保有している建物や機械等の修繕を必要としない
- 外部の企業や個人に仕事を依頼することがない
具体的にはかなり広範囲の業種に影響がある見通し
個人事業主として営業されている業種としては、一人親方やライター等のフリーランスはもちろん、飲食店やタクシー運転手等様々です。企業が取引相手となることの多い業種では、インボイスが発行できないことで取引が減少してしまう可能性はあるでしょう。
また個人から何か購入して商売を行っている場合は、その個人の方がインボイスを発行できなければ仕入税額の控除を行うことができなくなってしまいます。
時代の流れとともにフリーで活動されている個人が増えているので、制度導入後には幅広い業種で影響が出てくるのではないでしょうか。
それぞれの立場でインボイス制度への対応を検討することが必要
新しい制度においては、インボイスを「発行する立場」「発行してもらう立場」によって対応していくべきことが異なってきます。
前者では、既存の販売先と継続して取引を行っていけるように登録申請の検討が必要になるかもしれません。一方、後者であれば仕入税額の控除を行うためには、既存の商品と同じものや代替品を取り扱っている業者を新規で探す必要が出てくる可能性があります。
それぞれの立場でどう対応していくことがベストなのか、今から検討していきましょう。
【まとめ】知識を取り入れてインボイス制度による影響に備えよう
「インボイス制度とはどのような制度で、現状と変わる点は何なのか」そして「自社が現在行っている経営活動に、どのような影響が及ぶのか」について、まずは理解をすることが大切です。
お金の受け取りや支払いが発生する限り、程度の大小はあれど影響は出てきます。インボイス制度がスタートするまでに自社で対応できることは早めに行い、着実に備えていきましょう。