自社開発の化粧品や健康食品のEC事業を手掛ける「北の達人コーポレーション」。2000年の創業以来、北海道の豊かな資源を活用して、徹底した顧客満足を追求するビジネスモデルで成長。『北の快適工房』ブランドで躍進を続け、東証プライム上場企業へと上り詰めたネット通販ベンチャーです。今回、同社代表取締役社長の木下勝寿氏にインタビューを依頼、その成長の秘訣となる、経営や商品開発、マーケティングや評価制度等、経営者が知るべき要諦について語っていただきました。
自社のマーケティングについて、社長以上のマーケターはいない
――たとえば木下代表が他の中小企業の経営状況をご覧になるとすると、まずは会社の何を見ますか?
私が考えるのは、売上を下げて利益を増やすことですから、まずは決算書を見ます。どの会社も無駄な売上が絶対に多いので、独自の「5段階の利益管理」を行っていきます。クライアントごと、商材ごとに見ていくなかで、どこに大きな無駄があるのかを把握し、該当する部分を整理していきますね。
そうした作業で売上の中身は改善できていくわけで、大事なのは、社長の思い込みによる弊害をいかに正すかということでもあります。経営を邪魔する一番の要因は、多くの場合で経営者の固定観念やこだわりなんですよ。固執している部分をどれだけ排除できるかが重要で、まずはそれを自分自身に問うてみることでしょう。いかに変われるか、いかに自分の思い込みを外していけるかがすごく大事かな、と思います。
――新しい情報に飛びつくよりも、まずは自分自身を省みるということでしょうか?
そうですね。僕は新しい情報なんてたいして必要はなく、基礎をきちんと行うだけで成功できると思っています。新しい情報へのこだわりは、大成功には向いているかもしれませんが、一歩間違うとそれに飛びつくことで本来の基礎が崩れてしまうことがある。商材や取引先について数値に基づいた利益管理ができていないのは、基礎ができていないのと同じ状態で、そんな中で新しい情報に飛びついても意味がないのです。
そもそも経営者にとって、数字は地図のようなものなんですよ。それを見ながら目的地に向かうことが大事で、多くの人は地図をもたないか、ときどき地図を見るという程度。でも僕は常に地図を細かく見ながら、進むべき方向をその都度決めていくという感覚です。そしてその地図は、あくまでも自分でつくるということなんです。
私は当社のマーケティングについて、自分以上のマーケターはいないと思っています。集客をする際に、事業戦略や利益管理の思考は欠かせず、あらゆる判断の中で自社独自の強みを活かしながら行う必要がある。経営者以上にそれができ得るマーケターって、なかなかいないと思いますから。
目標を明確に、評価を公平なものにすることで育成も進む
――続いて「人材」についてお聞かせください。DXやデジタル化の中で、それを推進するデジタル人材の育成が欠かせないと思いますが、その点御社ではどのような取り組みを行っていますか?
「デジタル人材」に限らず、当然ながら求められる能力は職種ごとに違います。たとえば当社では、採用選考試験も職種に応じたものを用意して、適性に合った人材を採用できるよう工夫しています。たとえばカスタマーサービスを担当する人も、電話対応とメール対応では求める素養が違いますし、広告においてもクリエイティブを創る人と実際に運用する人では異なりますから。適性を見る内容にして、本当に向いている人を採用していくことで、即戦力として活躍してくれる度合いも高まります。
ほかには、詳細な指標と数値を用いることで公平な評価を重視する制度にしている点も挙げられるでしょうか。たとえば、クリエイティブは広告をクリックして飛んだ先のクッションページからランディングページに行き、コンバージョンして新規受注が完結しますが、その3つに関わった人それぞれに0.33ポイントずつの評価が為される仕組みにしています。目的や目標を明確にして、評価の中身を公平かつ透明なものにすることで、育成もしやすくなると考えています。
――明確な指標によって、社員にとっても評価が適正に行われているという安心感があり、特別な育成を意識しなくても社員が育っていく要素もあるのでしょうか?
どうですかね…。最終的には評価制度に納得する人は、自分の評価が高かった人で、評価の低かった人はどんな制度でも納得しないのかな…という想いもあります(笑)。なので、評価制度に正しい答えはないという認識ですね。
ただ、査定という数値の評価は大事ですが、一方で結果の数値だけで見てしまうとどうしても一面的になってしまう懸念があります。ですから、もっとも重視するのはKPIでしょう。一人ひとりに対してKPIをきちんと設定しておくことで、継続的なモチベーションにつながり、指標に向かって動いていってくれます。それを明確にしつつ、各々にしっかりと腹落ちしてもらうことで成長のスピードにも違いが出てくると思いますね。
「びっくりするほど良い商品で、世界のQOLを1%上げる」
――ありがとうございます。創業20年を経て、EC事業からヘルス&ビューティーケアを主体とした事業へと変遷されるなかで、御社の今後の展望を教えてください。
これまでは、たとえばマーケティングや管理会計をきっちりやる、といった内向きのベクトルがあったように思います。今後はさらに視野を広げることに重点を置いて、世の中にどのような影響を与えていけるかということに焦点を当てていきたいと考えています。
それを踏まえ、「びっくりするほど良い商品で、世界のQOLを1%上げる」を新たなミッションに掲げ、生活者の喜びを創っていくという原点に今一度立ち戻りたいと考えています。日本を代表する次世代のグローバルメーカーになることを目指し、ネット発の日本のグローバルメーカーとして、世界に誇れる存在になっていきたいと思いますね。
――最後に、合理的な経営をしていきたいと考えている経営者にメッセージをお願いします。
その意味では、このほどダイヤモンド社から『時間最適化、成果最大化の法則』という新刊を上梓しましたので、良かったらぜひご一読ください。(笑)それはともかく、これまで私が唱えてきたもので一番反響が大きいのは、「ピッパの法則」なんですね。つまり、「ピッと思いついたらパッとやる」。これは、誰がやっても絶対に成果が出るという普遍の法則です。
この記事を読んでいただいた経営者の皆さんに、ぜひ実践してほしいと願います。経営者ご自身が行い、そのあと従業員の方に広めてもらうと、それだけで日本のGDPは必ず上がると私は信じていますから。
■ 木下 勝寿(きのした・かつひさ)
1968年神戸生まれ。大学在学中に学生企業を経験し、卒業後は株式会社リクルートで勤務。その後、独立するも、事業に失敗しフリーターに。無一文の中、「次は絶対に顧客満足にこだわったビジネスを行うこと」、「日本を代表する企業を創ること」を胸に再起を誓う。必ず成功するためにどこでビジネスを行うべきかを徹底調査した結果、北海道が日本で最も可能性を秘めた土地であるという判断をし、北海道へ移住。コネもツテも一切無い状況から事業を起こし、たった一代にして東証プライム上場企業にまで押し上げた。そんな功績を持ちながらも、「社長との距離感の近さが会社の魅力!」と言われるほど、社員からの信頼も絶大。
■著書
・「売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密」(2021年、ダイヤモンド社)
・「ファンダメンタルズ×テクニカルマーケティング──Webマーケティングの成果を最大化する83の方法」(2022年、実業之日本社)
・「時間最短化、成果最大化の法則─1日1話インストールする“できる人”の思考アルゴリズム」(2022年、ダイヤモンド社)