自社開発の化粧品や健康食品のEC事業を手掛ける「北の達人コーポレーション」。2000年の創業以来、北海道の豊かな資源を活用して、徹底した顧客満足を追求するビジネスモデルで成長。『北の快適工房』ブランドで躍進を続け、東証プライム上場企業へと上り詰めたネット通販ベンチャーです。今回、同社代表取締役社長の木下勝寿氏にインタビューを依頼、その成長の秘訣となる、経営や商品開発、マーケティングや評価制度等、経営者が知るべき要諦について語っていただきました。
10のうちの1の人だけに、いかにアプローチしていくか
――新規顧客獲得から定期購入促進の流れについてお聞きしたいのですが、お客様の最初の入り口となる自社ECサイトと、Amazonや楽天等といったECプラットフォームとのバランスはどのようにお考えですか?
基本的に利益とは<LTV-CPO>で求められるものですが、定期購入で売るほうがLTVは絶対に高くなります。そして自社サイトでの定期購入だとLTVが高く、CPOも高い。いっぽうAmazon等のプラットフォームは定期購入になりませんからLTVは低いですが、その代わり、CPOは低いです。
ということはLTVとCPOの差が利益ですから、別にどちらの売り方でも良いという理解になります。ただ当社の場合、自社サイトのほうが当然売上の規模が大きいわけで、ECプラットフォームに流れるお客様をできるだけキャッチしていくことは常に考えています。
その点、当社は子会社にラジオ媒体を持っていますが、いつも感じるのはマス広告との相性が良いのはAmazonや楽天で、逆に自社サイトは良くないということ。たとえばTVのCMで「続きは検索で」と言われても、実際にそうする人ってあまりいないでしょう。マス広告は直接的なアクションを促すのではなく、店頭で商品を見て、「CMでやっていたな」と購買を促すもの。ですからECプラットフォームはあくまでも、マス広告の受け皿として重要であるとの認識ですね。
新規顧客の場合、マス広告で商品を認知した人はプラットフォームに行きやすく、自社サイトの広告で認知した人は、クリックしてそのまま自社サイトを訪れます。そしてプラットフォームは競合も多く、価格競争に陥るリスクも頭に入れて戦略的な棲み分けを考えていくことが欠かせません。設計は丁寧に組み立てていくことが必要でしょうね。
――たとえば新規の顧客を獲得していくセオリーとして、まずはマス広告を打ってプラットフォームで母数を取り、その後自社サイトに促し育成することで定期の顧客にしていく…という考え方は可能なのでしょうか?
いえ、基本的にマス広告というのはそんなに効率的なものではなく、10のうち買うのは1で、残りの9は“死骸”になってしまうと考えています。そうではなく、われわれはいかに1の人だけにアプローチしていくかということを強みにしていますから。
自社サイトはその点、LTVを最大化してくれます。プラスαとしてマス広告やプラットフォームがあるだけで、あくまでも「買ってくれそうな人」だけにいかにアプローチしていくか。実際にそれを実現しているのが、当社が行う戦略の100%なのです。
仕入れの数を増やして単価が下がっても、売り切れなかったらムダ
――管理会計の部分についても教えてください。木下代表の「売上最小化&利益最大化」の経営スタイルはいつ頃気付いたものなのですか?
2000年に起業したとき、本当にお金のない段階からのスタートで、昼間もアルバイトしていたような状態でしたから、いわばそう考えざるを得ない状況だったんです。たとえば、今日1万円投資したら、月末には1万2千円になってくれなければ生活できない。とにかく売上をあげて利益は二の次でいい…なんて悠長なことは言っていられません。それこそ生活のかかった状況でしたから真剣に、徹底的に考えたわけです。
その中で、eコマースだと販売の詳細がすべて数値化され、売上予測等先読みのエビデンスが得られることが分かりました。その上で、段階的な利益管理を施していくことで、もはや売上を重視する必要はなくなる…。あくまでも利益の中で、必要なターゲットに向けて資源を無駄なく集中させ、確かなビジネスへつなげていくことを考えたのです。
――売上を追わなくても、利益を着実に増大していけると。
ですから、世の中の経営者が「どうして売上、売上と言うのだろう?」と不思議でならない感覚でした。たとえば当社の経営スタンスは、きっと中学生や主婦の方が聞いたら「そんなの当たり前でしょ」って言うと思いますよ。だって普通は、稼いだ以上にお金は使わないでしょう。持っている以上は使わなければ、お金だって借り入れする必要はありません。
そして、現金がない中でビジネスを行うなら、売り切れるかどうかで仕入れの数を決めていきますよね。仕入れの数を増やして単価が下がっても、売り切れなかったらその分在庫として残るわけで、現金もなくなってしまいますから。それなのに多くの経営者は、「安くなるから」といって多く仕入れてムダを作る。仮に売り切れなかったとしても、PL上では利益が出ている見え方になるからなおさらです。
手持ちのお金がなくても借り入れによって多くの仕入れを行い、売上ばかりを追い求めた結果、利益がなくなる。そうしたビジネスをしている経営者が非常に多いことを知って、シンプルに驚いたんですよ。だから管理会計という手法も、僕としては当たり前のことをただずっとやっているだけで、何かのやり方を変えた…ということでは決してないわけです。
▶︎NEXT #3 経営を邪魔する一番の要因は「経営者の固定観念やこだわり」
■ 木下 勝寿(きのした・かつひさ)
1968年神戸生まれ。大学在学中に学生企業を経験し、卒業後は株式会社リクルートで勤務。その後、独立するも、事業に失敗しフリーターに。無一文の中、「次は絶対に顧客満足にこだわったビジネスを行うこと」、「日本を代表する企業を創ること」を胸に再起を誓う。必ず成功するためにどこでビジネスを行うべきかを徹底調査した結果、北海道が日本で最も可能性を秘めた土地であるという判断をし、北海道へ移住。コネもツテも一切無い状況から事業を起こし、たった一代にして東証プライム上場企業にまで押し上げた。そんな功績を持ちながらも、「社長との距離感の近さが会社の魅力!」と言われるほど、社員からの信頼も絶大。
■著書
・「売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密」(2021年、ダイヤモンド社)
・「ファンダメンタルズ×テクニカルマーケティング──Webマーケティングの成果を最大化する83の方法」(2022年、実業之日本社)
・「時間最短化、成果最大化の法則─1日1話インストールする“できる人”の思考アルゴリズム」(2022年、ダイヤモンド社)