社会福祉法人の会計処理は、一般企業とは異なります。そのため、企業で会計を担当したことがある方でも、あらためて特徴を押さえて業務を始めることが必要です。
本記事では、社会福祉法人の会計について「基本情報」「会計の特色」を解説します。
社会福祉法人ならではのルールを確実に理解して、正しい業務遂行を目指しましょう。
そもそも社会福祉法人とは?
会計処理の前に、社会福祉法人そのものの概要について触れておきます。
厚生労働省によると、社会福祉法人は下記のような定義があります。
社会福祉法において社会福祉法人とは、「社会福祉事業を行うことを目的として、この法律の定めるところにより設立された法人」と定義されています。
ここでいう「社会福祉事業」とは、社会福祉法第2条に定められている第一種社会福祉事業及び第二種社会福祉事業をいいます。
また社会福祉法人は、社会福祉事業の他公益事業及び収益事業を行うことができます。
(引用:厚生労働省HP)
このように、社会福祉法人は「会社の利益第一」ではなく、「社会福祉事業により人々に貢献することを最重要視」する法人と言えるでしょう。一般企業の場合は利益を優先する特徴がありますが、社会福祉法人はあくまでも「公共に貢献」が最優先事項です。
社会福祉事業を行うために設立された非営利の会社
社会福祉法人は、利益よりも社会福祉事業を通じて貢献する役割を重要視します。そのため、一般企業が「営利団体」と呼ばれることに対して「非営利団体」と表現されます。
また、社会に貢献しているという点から、一般企業と比較すると税金面で優遇されている特徴があります。
さらに掘り下げていくと、社会福祉法人が行う社会福祉事業は「第一種社会福祉事業」「第二種社会福祉事業」に分類されます。2つの事業における違いは「経営主体が限定されているか」です。
第一種社会福祉事業は、対象者の支援の重要度が高い施設です。生命の危機に関わる事案に悩む対象者向けの事業です。具体的には、更生施設や乳児院、養護老人ホーム等があります。重要度が高いため、経営主体は限定されており、原則として「社会福祉法人と国や地方公共団体」のみ運営可能です。
一方で第二種社会福祉事業は一種に比べると重要度が低くなります。具体的には保育園やデイサービス、放課後児童クラブ等があります。第二種の場合は、経営主体は限定されておらず、民間企業でも経営可能です。
一般企業が自社の利益追求が大きな目的であるのに対し、社会福祉法人は困っている人のために事業を行う「非営利」の団体と認識しておきましょう。
社会福祉法人の会計をするために必要なポイントを解説
社会福祉法人の大枠を確認しました。次にここからは、会計にフォーカスして見ていきましょう。社会福祉法人の会計は会計基準の設定等、一般企業とは異なる点があります。
社会福祉法人会計基準がある
厚生労働省によると、社会福祉法人会計基準は下記のように定義されています。
社会福祉法人会計基準は、「会計基準省令」と一般に公正妥当と認められる社会福祉法人会計の慣行を記載した通知(「運用上の取扱い」、「運用上の留意事項」)によって構成されています。
社会福祉法人は、原則として、法人全体、事業区分別、拠点区分別に、資金収支計算書、事業活動計算書、貸借対照表の3つの計算書類を作成する必要があります。
これらの計算書類については、その附属明細書及び財産目録を併せて作成した上で、毎会計年度終了後3か月以内(6月30日まで)に所轄庁へ提出しなければなりません。
(引用:厚生労働省HP)
社会福祉法人の第一目的は「支援が必要な方へ貢献する」ことです。また、支援が必要な高齢者や子どもは一度ではなく継続的に施設にて支援を受けていくため「法人が安定して継続できるか」というポイントが重要です。
そのため、社会福祉法人会計基準では資金の収支はもちろん、継続に必要な「法人がどのような活動をしているか」「どのような成果を出したか」についてのルールも設けられています。
特定の基準はあるものの税金面では優遇される
社会福祉法人は「困っている人を支援する」という公益性の高さから、法人税等は原則非課税です。また、共同募金をはじめとした各種助成金や補助金の対象にもなります。
しかし、優遇されている反面、誰もが法人の運営状態を確認できるよう、外部に財務状況を公開する義務も会計基準で定められています。
そもそも「会計」の役割は?
これまで社会福祉法人のお金周りについて紹介しました。
ここからは社会福祉法人への理解をより深めるために、会計全般に関する情報を紹介します。
会計の原則
企業会計には「企業会計原則」というルールが設けられています。
法的な拘束力はありませんが、企業が決算書を作成するときや監査の際にはチェック対象となるため理解しておくことが大切です。
今回は社会福祉法人の記事のため、会計の原則に関しては一覧でのみ紹介します。
企業会計原則
一般原則(7原則)
真実性の原則
正規の簿記の原則
資本取引・損益取引区分の原則
明瞭性の原則
継続性の原則
保守主義の原則
単一性の原則
貸借対照表原則
損益計算書原則
社会福祉法人会計の特徴を確認
最後に、これまで解説した社会福祉法人の特徴を一般企業と比較します。
社会福祉法人
一般企業(株式会社の場合)
根拠となる法律
社会福祉法
会社法
事業目的
非営利
営利
会計の基準
社会福祉法人会計基準
(一般に公正妥当と認められる社会福祉法人会計の慣行)
会社計算規則
(一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行)
会計の必要書類
貸借対照表
資金収支計算書
事業活動計算書
貸借対照表(BS)
損益計算書(PL)
株主資本等変動計算書
個別注記表
会計の単位
あり(事業・拠点・サービス)
なし(全体)
企業は「営利」社会福祉法人は「非営利」
繰り返しになりますが、社会福祉法人の最大の特徴は「非営利」である点です。
企業の場合は、利益を第一に求めます。しかし社会福祉法人は「支援を求める方を助ける」ことが目的です。
これらの違いから、会計の基準や必要書類が異なります。
必要書類が異なる
一覧表にも記述がありますが、決算で求められる書類も大きく異なります。
社会福祉法人の書類で特徴的なものは「資金収支計算書」「事業活動計算書」です。
資金収支計算書は、年度ごとの収入・支出・収支を明らかにした上で、当期資金収支差額を計算した書類を指します
事業活動計算書は、年度ごとの純資産の増減内容を明らかにしたものを指します。
社会福祉法人は継続的に支援を求める方が利用するため、安定かつ継続した事業を求められます。そのため、年度ごとに活動結果や資金の動きを公に公開する必要があります。
会計単位が異なる
もう一点違いとして、会計の単位があります。
一般企業では会計処理を全体で行います。しかし、社会福祉法人の場合は会計単位を3つにわけて実施します。
具体的には、社会福祉法人全体の計算書類を「事業区分」とします。
さらに事業区分を「拠点区分」に分類して作成し、各拠点で実施される複数の事業を「サービス区分」で分類し、書類の作成を行います。
まとめ:社会福祉法人の会計は特徴をつかもう
今回は社会福祉法人の会計について解説しました。
少子高齢化や核家族等、多くの社会的要因で社会福祉法人の重要性が高まっています。そのため、会計担当者の中には社会福祉法人の会計に携わる可能性がある方もいるでしょう。
社会福祉法人の会計は、独自の基準や目的を持つため最初は戸惑う可能性もあります。しかし、会計業務としての基本は一般企業と同じであるため「正確かつ公正」を意識して業務にあたりましょう。