私たちの生活にはデジタルが欠かせなくなり、それとともに、各業界において「デジタルを活用して業務効率化を図る」ということを目指す動きが加速してきました。
食品流通という分野においても、デジタル活用の動きは広まっています。
では、食品流通分野においてデジタル化はどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
農林水産省 大臣官房 新事業・食品産業部 食品流通課の武田裕紀氏によるセミナーの内容を元に、デジタル化の必要性および具体的な導入方法を、事例も交えつつ解説していきます。
「デジタルにもいろいろな種類がありますが、本セミナーのテーマは『繋がる』です。
流通のひとつの機能は、繋がることです。『繋がるためのデジタル』ということをテーマに、皆さんへ今後の展望等を共有したいと考えています」(武田氏)
■食品関連事業における「業務コスト削減」セミナー
セミナー概要:デジタルによる食品流通の効率化の背景、デジタルによる業務効率化の実例等
登壇者:武田 裕紀 氏
農林水産省 大臣官房新事業・食品産業部 食品流通課長(食料産業局 食品流通課長)
宇都宮大学を卒業後、平成 7 年農林水産省入省。平成 11 年から 13 年に総括係長として、市場課、流通課に在籍。
その後、大臣官房、地方自治体(兵庫県洲本市)出向、米、甘味資源の担当を経て、人事・採用を担当。平成 29 年 1 月に食料産業局の卸売市場室長に就任。 令和2年4月に食料産業局食品流通課長に就任、令和3年7月より現職、現在に至る。
食品流通分野になぜデジタル化が必要か
では、そもそも食品流通分野にはなぜデジタル化が必要なのでしょうか。
武田氏は、ある木材の輸出の促進会合にて「このような取引先・販路はどのように見つけるのですか?」という質問に対し「某検索プラットフォームを使用している」と返すやり取りを耳にしました。
これを受け、「現代ではいろいろなものがデジタルの中で行われているのだ」と改めて実感したそうです。
現代社会では、わからないことや新しく得たい知識がある際に多くの人が検索プラットフォームで検索を行います。
つまり、今の時代はデジタルの中でフラグを立てるようなことをしていないと、存在すら認識されないということになります。
スマートフォンをはじめとしたデジタル機器が普及している現代において、デジタルを活用しなければならないのはどの業界も同じだと言えるでしょう。
「流通、特に卸売市場は柔軟性を持っています。その柔軟性を発揮していくためにも、より自動化・効率化できる部分というのはデジタルの力を借りていく必要があるのだろうと思っております」
スマートフードチェーン
ICTを使って農業の自動化や効率化を図るスマート農業等のように、様々な一次産業においてデジタル化の動きが見られています。
このように産業内でデジタル化の動きが出てくれば、当然その商品はデジタルを背負って流通することになるでしょう。
スマートフードチェーンとは、デジタル化によって生産の現場がスマートになっていった暁に、データ・情報を商流上・物流上で共有しながら業務を行っていこうとする取り組みのことです。
取り組みそのものは、スマート農業やスマート水産業の方からスタートしています。一方スマートフードチェーンは、つい最近(2021年の下期ごろ)具体化した「まさにこれから」となる取り組みです。
スマートフードチェーンを通して、情報を共有しながら物流・商流を動かしていこう、というような取り組みが政府全体で行われています。
物流・商流データ基盤
物流面に関しても、スマートフードチェーンに近い取り組みがあります。
デジタルの世界においては、「これは食品の流通だ」「これは物流だ」のように、あまり垣根を設けられることがありません。最初の起点は違っても、同じようなところに行き着くことが多いのは、こうした垣根のなさが理由となっているのでしょう。
物流分野においても、スマートフードチェーンに近い「物流・商流データ基盤」というような取り組みが進められています。
ただし、物流・商流データ基盤とスマートフードチェーンには大きな違いがあります。
スマートフードチェーンは、スマート農業やスマート水産業からどんどん川下側に引っ張ってくるようなイメージの取り組みです。
一方で物流・商流データ基盤は、まさに物流自身をスマート化していくというスタンスの取り組みとなっています。
この取り組みは今始まったという訳ではなく、かなりの時間をかけて行ってきたものです。
2022年は、最終の総仕上げにきていると言ってもいいほどです。
内容は、先ほどのスマートフードチェーンと似たところがあると言えるでしょう。
各レイヤーで(入出庫のデータやトラックの動態データや、購買データ等)を共有することで、物流の共有・購買データ等をベースに物流の波動を共有するのが主な役割です。
例として、「波の高いところの品目があれば、逆に波の低いところの品目と組み合わせていく」といった施策を行っていくことができます。
フィジカルインターネット
スマートフードチェーンと物流・商流データ基盤は、どちらも内閣府が社会課題解決のための戦略的なプログラムで行っているものです。
一方フィジカルインターネットは、経産省や交通省が中心となって、「2つの取り組みのその先(2040年度ごろ)にこうした世界を作っていこう」という姿勢で行っている取り組みです。
フィジカルインターネットは、2021年の下期ごろから取り組みを整理されはじめてきました。
今まで私たちは、専用回線でインターネット通信をしていました。
しかし現在は、ある種標準化された通信規格の中、共通回線においてデータや情報をやりとりしています。
このような「物流もインターネットのように使ってはどうだろうか」という発想がフィジカルインターネットです。
現代のインターネットのように物流が組まれ、n対nでの繋がりがなくなると、現在よりもすっきりと物流が動くようになるのです。
例えば現在の専用物流の場合は、「A社に対してX社」「C社に対してZ社」というような形で、それぞれの業者がそれぞれn対nで結ばれています。
一方フィジカルインターネットの世界では、「物流をシェアする」をキーワードに、ハブ拠点を設けた上で積載を行っていきます。
これにより、従来よりも効率的な積載が実現可能となります。
フィジカルインターネットが実現された場合は、情報共有を紙で行うのは難しいため、デジタルの世界で共有を行うことになります。
そうすることで物流の情報が可視化されることになり、さらなる業務効率のアップに繋がります。
例えば、フィジカルインターネットが導入されると、リアルタイムでルート・積降拠点の最適化をすることが可能となります。
また、食品産業では「産地から来るトラックは手配できるが、帰りの便がないので、その分のコストがかかる」という問題がよく聞かれます。
しかしフィジカルインターネットを導入すれば、帰り荷をリアルタイムでマッチングすることができるようになり、情報の非対称性が解消されます。
食品流通分野におけるデジタル化の必要性
ここまで紹介した「スマートフードチェーン」「物流・商流データ基盤」「フィジカルインターネット」の実現を支えているものは、デジタル化と標準化です。
上記3つが実現することで、物流・商流が全体最適・共同化されていきます。
食品や生鮮品は生活に必要なものですが、利益率が高い訳ではありません。
独自のユニークさを保てるほどの利益が取れない食品流通分野こそ、「業種を超えて全体を最適化していこう」という流れにうまく乗っかっていく必要があります。
そうした中で、全体の流れに乗っかっていくためのパスポートとして、デジタル化対応と標準化が必要となるのです。
食品流通分野をどうデジタル化するか
食品流通業者の方が抱えられている悩みは、主に「入荷」・「値決め」・「分荷」・「配送」・「決済」の5つに分けられます。
「入荷」の悩みとしては、以下のようなものが多く聞かれました。
- 荷受け時に記入する送り状の入力が大変
- 送り状と品物の検品を行うのが大変
- パレットが紛失しないように管理するのが大変
「値決め」の悩みとしては、「出荷者(メーカー)と納入先の双方が納得できるような価格を提示するのが大変」という声がありました。
「分荷」では「生産・消費ともに天候の影響を受けやすいため、需給のミスマッチが発生しやすい」という悩みが聞かれます。
「配送」の分野では、以下のような悩みが聞かれました。
- 包装加工等の調製やピッキング、納品等の作業が大変
- 小口多頻度化してしまう
そして「決済」では、「請求書の発行や送付、支払の確認や消込が大変」という声が聞かれました。
上記のような様々な悩みをデジタルで解消できないか、という考えが多くの企業にとってのデジタル化の動機になっているのではないでしょうか。
業務のデジタル化に当たっての留意事項
業務課題解決にデジタル化を利用する場合は、必ず留意すべきことがいくつかあります。
ひとつ目に、「デジタル化は目的ではなく手段であることを忘れない」ということが挙げられます。
事実、「一体なんの効率化になっているのか」「むしろ悩みの種になっているのでは」と感じられるようなデジタル化もたびたび見受けられます。
「デジタル化をする」という目的に囚われすぎて、悩みの解決にならないデジタル化をしてしまっては意味がありません。
また、「一石二鳥、一石三鳥で解決できないか」ということについても常に考える必要があります。
「デジタル化によって解決したことを、ほかの分野にも活かせないか」といったことを常に考えながら施策を進めていきましょう。
続いての留意事項は、部分最適ではなく全体最適にしていくことです。
デジタル化を行う場合は同部門だけでなく、社内のほかの部門や取引先、関係事業者等、繋がった先も最適化していくことを目指しましょう。
さらに、国際標準や国内標準への準拠を常に意識することも大切です。
国際標準や国内標準を意識しながらデジタル化を行うことで、個々がユニークなものになりすぎることが防げます。
すると結果的に、スマートフードチェーン等によってそれぞれが繋がっていきやすくなります。
続いての留意事項は、汎用・カスタマイズ・オーダーメイドのどれを用いるべきなのかをしっかりと検討することです。
デジタル化によって悩みを解決する場合は、「独自の仕組みを用いたオーダーメイド型で行ったほうがいいのか」「既に汎用として販売されているものを用いたほうがいいのか」「業界内でそういったものを作っていくのか」といったことを考えるようにする必要があります。
また、業界全体で繋がっていく可能性のある部分については、国際標準や国内標準に準拠するような汎用性のあるものを意識してデジタル化することが大切です。
食品流通分野におけるデジタル化による業務効率化イメージ
食品流通分野がデジタル化していくことで、ペーパーレスやスムーズな情報共有、最適化、共同化、自動化、予測といったことが実現できます。
すると、「トラックの予約システムによって荷待ち時間が短縮される」「分荷・配送データの共有による共同配送」「伝票を電子化することでペーパーレスになる」等、様々な業務の効率化が実現されていきます。
具体的事例
ここからは、食品流通分野にデジタルを取り入れた具体的事例について解説します。
事例1:fudoloop(出荷情報・市状情報の共有)
ひとつ目の事例は、fudoloopです。
fudoloopとは、農家と市場・青果卸を情報共有によって繋ぐアプリです。
生産者が作物の出荷予定をスマホ上で報告すると、その情報を作物の価値を高めるために必要な情報として記録し整理します。
fudoloopを使用することで、ペーパーレスや情報共有といったメリットが得られます。
事例2:nimaru(出荷情報・市状情報の共有、送り状自動作成)
2つ目の事例は、nimaruです。
nimaruとは、生産者と出荷者の間で業務連絡や取引業務が効率的に行えるようになるサービスのことです。
生産者がnimaruで出荷量を入力すると、送り状が自動で作成されます。
nimaruを使用することで、fudoloopと同じくペーパーレス・情報共有といったメリットが得られます。
事例3:水産物流通の送り状ペーパーレス化・出荷情報の共有
3つ目は、出荷者・場内荷役・仲卸業者・量販店等が取引の結果(数量等)を同時共有することで、場内物流をスムーズにする役目を果たしている事例です。
fudoloopやnimaruの事例よりもレイヤーを増やして同時共有することで、場内の物流の方の改善にも繋げています。
事例4:伝票のペーパーレス化
4つ目は、加工食品の現場で取り入れられているデジタル化の事例です。
こちらは、発荷主から出された伝票を電子化することで、ペーパーレスで伝票の中身を共有するというシステムです。
加工食品は製品の性質上、データがやり取りされるだけで「その通りに運ばれている」ということの証明になります。
つまり加工食品業界に伝票の電子化を採用すれば、伝票のペーパーレス化だけでなく、検品をなくすことにも繋がります。
この状態こそが、前述した一石二鳥の状態へと繋がっていると言えるのです。
事例5:oneplat(決済業務のペーパーレス化・自動化)
5つ目の事例は、業務コストの削減に特化したサービス「oneplat」です。
様々な企業間における決済の上では、帳票類がシステムやPCによって作られ、紙で出され、郵送され、そしてまたデジタルに入力されています。
こうした「デジタル→アナログ→デジタル」という効率の悪い流れを断ち切り、データ共有・ペーパーレス化・振り分けの自動化といったデジタル化を行えるようになるのがoneplatです。
「こうしたペーパーレス・自動化の取り組みからスタートしていくことは、デジタルの導入口としても良いのではないでしょうか」(武田氏)
食品流通分野におけるデジタル化
最後に、武田氏は食品流通分野におけるデジタル化について以下のように語りました。
「社内や業界の中で悩んでいることをデジタルの力で解決しよう、というところがスタートでしょう。
そのためには、私どもも支援をおこなって参りたいと思います。また、1社だけでなく、取引先をはじめとした業界全体の取り組みに繋げていきたいと思っております」(武田氏)
oneplatについて
oneplatは、買い手側(お支払を行う側)に特化したサービスとなっています。具体的には、納品書や請求書を受け取るところからご利用いただき、経理周りまでデータを流用することで入力作業の工数が削減できるサービスです。
主に「業務コストが削減できる」という観点で多くの評価を受けており、これまでにも「革新的だと思う」「おすすめしたいと思う」といった声が寄せられています。
oneplatの主なメリットは、以下の4つです。
- 業務コストの削減が可能
- 業務時間の削減が可能
- 会計業務の改善が行える
- リモートワークツールとしても利用可能
ひとつ目として、業務コストの削減が可能であることが挙げられます。
すべての納品書や請求書をペーパーレスにまとめ、一元管理することで、大きなコスト削減に繋げられます。
2つ目は、業務時間の削減が可能であるという点です。
取りまとめたデータは自動取り込みされるため、仕訳入力のような時間のかかる作業が必要なくなり、業務時間を大きく削減できます。
導入事例の中には、今まで145.8時間かかっていた作業が3分で終わったというような声も聞かれました。
特に納品量の多い企業にとっては、より大きな結果が期待できるでしょう。
3つ目は、会計業務の改善が行えるという点です。
oneplat上で総合振込データを作成したり、仕訳の消込を自動入力したりすることで、会計業務の効率化にも役立ちます。
4つ目は、リモートワークツールとしても利用可能であるという点です。
oneplatは、自宅のパソコンやスマホ、タブレット等、様々な媒体で操作可能です。
そのため、オフィス以外の場所でリモートワークを行う際にも多いに役立つでしょう。
oneplatは金融機関と開発を行っており、セキュリティ面での安心感も高いサービスです。
高いセキュリティレベルと運用度によって、財務や経理部門のリモートワーク化に貢献します。
業者側にとっても、「納品書・請求書のペーパーレス化」「請求内容の間違いの減少」「請求書をワンクリックで発行」といった様々なメリットがあり、双方に良い結果をもたらすサービスだと言えるでしょう。
oneplatの初期導入費用は0円となっております。業務における時間や人件費等のコストを減らしたい方は以下より資料をダウンロードしてチェックしてみてください。