【アパホテル株式会社取締役社長 元谷芙美子氏 インタビュー】コロナ禍で業界大打撃でも「黒字経営」を続けられる経営哲学とは #2 今日のいまのこの瞬間こそが、自分にとっての宝物の時間

「私が社長です。」―-おなじみのフレーズと個性的なファッションで、多くのメディアを席巻してきたアパホテル社長・元谷芙美子氏。生まれもっての天真爛漫さで、つねに話題の提供にこと欠かない元谷氏ですが、その経営手腕も同社が遂げてきた創業以来の連続黒字経営で実証済みです。ただここ数年のコロナ禍で吹き荒れたホテル業界への強烈な逆風は、さすがの元谷氏も予想し得なかった荒波だったそうです。そして今、かつてなかったほどの苦境を経験しながら、見事なV字回復を遂げた同社。それを実現する要因となった、元谷氏が培ってきた経営哲学とは何でしょうか。自ら「スーパーポジティブ」と語る、そのマインドを含めてうかがいました。

 

子どもの頃からの「スーパーポジティブ思考」

事業を進めていく中で起こるのは、いつも良いことばかりではありません。良いこともそうでないことも平等に起こる、いわば半分半分というのが人生ですから。私は小さな頃からスーパーポジティブな、びっくりするくらいのプラス思考の子どもで、自分でもいつもアドレナリンが出まくっていたような状態(笑)。周りからも「すごいね」と、褒められているのかあきれられているのか分からない…といったことが少なくありませんでした。

とくに、もう駄目かな?と思うような状況でも、絶対にあきらめない。そこからはい上がって、絶対に成し得るという「レジリエンス精神」が昔から熱かった人間でした。そうした考え方やマインドが、社長として向いていたのかな…と思います。

 

一刻たりとも無駄にせず、今この瞬間を大切に歩みたい

たとえマイナスの状況下にあっても、人間というのは、どう考えるかでその後の方向性や人生自体が決まるのです。ただ漫然と生きていくのではなく、今日の続きが明日であり、明日の続きが明後日であると日々意識していくこと。継続することはもちろん大切ですが、もう少し深く読むと、人生とはただ継続していくのではなく、今日のいまのこの瞬間こそが、自分の宝物の時間であることを認識することが大切だと肝に銘じています。

というのも、ある社長からいわれた言葉が今も身に染みて心に残っているからです。「元谷さん、あなたは何気なくいま生きているかもしれないけれど、昨日つらい死を迎えた方にとって、心の底から生きたいと思っていたのが、今日のこの今、瞬間なんですよ」。その話を聴いて、私は涙が止まりませんでした。「当たり前のように今日や明日が来る。毎日を当然のように考えているのなら、あなたの人生は値打ちがないですよ」との言葉が深く胸に突き刺さったのです。

いま、縁あって関わってくれた社員等多くの人たちに対して、今のこの瞬間を日々大事にしながら、徳を積んでいく。お客様や社員、友人等大切な方々の幸せを願って、自分自身がどうできるか。一刻たりとも無駄にすることなく、今この瞬間を大切に歩んでいくことを肝に銘じて事業を行っています。

 

業界のリーディングカンパニーとして、本物の会社になっていく

創業後、オイルショックやその後のバブルの到来と崩壊、さらにリーマンショック、そして今回のコロナ禍等いろいろなことがありました。企業家としての器や生き方、あり方ややり方が試される波が、およそ10年ごとにやって来たわけです。

苦しく辛いと思ったそれぞれの出来事ではありましたが、そこで自分なりに道を示して生き抜き、明るい希望を示し続けてこられたと思うのも、自らの社長としての想いを大事にすることができたからだと思います。熱い情熱と聡明な英知を宿したい…との想いは自分を奮い立たせてくれ、トップであるからこその指針を示し、かわいい家族同様の社員が道を迷わずに進むことができるよう力を尽くしてきました。業界のリーディングカンパニーとして胸を張り、みなさんに自他ともに認めてもらえるような、本物の会社になっていく。そうやって生き抜いていける会社を経営させていただいていることに感謝しています。

 

お客様に幸せを提供し、人生の喜びが大きくなる仕事

歩み入る人に安らぎを、去り行く人に幸せを――。これは、ドイツのローデンブルグ地方にあるジュピタール門の中側に彫刻で彫られている言葉です。私はこの言葉をアパホテルの大切な哲学であり、信条にしています。

私たちのホテルに足を運んでくださった方に、心からの安らぎを感じていただきたい。そして帰路につかれる際には心から頭を下げ、お幸せと安全をお祈りする…そうしたシンプルかつとても重要なクレドが染み込んでいなければ、約5,000人の社員皆さんの共通の想いをサービスとして形にすることはできません。

ホテルとは、多くのお客様の寝食を預かるもので、予期せぬさまざまなことが起こり得ます。いわば命を預かっているという意味で、大きな責任を伴う仕事なのです。そうした想いを自覚し、お客様に喜びを提供してくれている従業員の皆さんには感謝の想いでいっぱいですし、たくさんのお客様に幸せを提供し、人生の中で喜びが大きくなる仕事――それをダイナミックに展開できていくのがホテル事業だと思って、これまで続けてきました。

 

苦しみながら楽しみながら、臨場感をもって実践することが大事

私自身、経営者としての人格形成はもちろん、人生における学びの機会をつねに大事にしてきました。2006年、59歳のときに早稲田大学大学院公共経営研究科修士号を取得し、2011年には同博士課程を修了。それ以降も大学教授の先生や起業家の若手の人たち、IT経営者の講演会に出させてもらう等、貴重なお話を聞く機会が多くありました。学び続けることの大切さと、それによって自分自身の人生がいっそう豊かになり、経営者としての知見の幅も広がることをうれしく思っています。

その一方で、「私が社長です。」のオリジナルキャッチコピーのように、自ら経営を実践してきた中で分かったのは、座学で積み重ねた論理だけで経営を上手に進めようとしても難しく、経営とは実際の生身の体で、生きた経済に身を落として、苦しみながら楽しみながら臨場感をもって実践することでこそ花開く――そうした想いなのです。

机の上で学ぶことの数々は間違っていませんし、正しいことだと思います。けれども経営は、それだけでは決してうまくいきません。孫氏の兵法にもあるように、経営哲学において、正しいことをしていくことは大事であり、正しいかどうかを判断するには、自ら勇気をもって実践することでしか確かめようがないのです。

そのための決断ができなければ、社長としての値打ちはありません。実際の実学で、蛮勇を奮って世の中のためになることをやっていく。自分だけのこと、会社だけのことだけではありません。自らの決断が、世の中の、経済や社会にとってプラスになるように果敢に行動していきます。

日本のサムライ心――これからの若い人たちにとって、胸を張って、笑顔で堂々と誇るべき良い国であることを、正しい歴史認識のもと私自身も実践のなかで学んでいきたいと思っています。独自のオリジナリティあふれる、物まねではない最先端のアイデアに想いを巡らせ、これからもアパホテルらしい事業やサービスを提供していきます。そんな活力を大事に、これからも皆さんと元気を共有できればうれしく思います。

 

 


■元谷芙美子(もとや・ふみこ)
アパホテル株式会社取締役社長

福井県福井市生まれ。福井県立藤島高等学校卒業後、福井信用金庫に入社。22歳で結婚し、翌1971年、夫の元谷外志雄が興した信金開発株式会社(現アパ株式会社)の取締役に就任する。1994年2月にアパホテル株式会社の取締役社長に就任。会員制やインターネット予約システムをいち早く導入し、全国規模のホテルチェーンへと成長させる。2006年早稲田大学大学院公共経営研究科修士号を取得し、2011年には同博士課程を修了。現在、アパホテル株式会社取締役社長をはじめ、アパグループ11社の取締役、日韓文化協会顧問、株式会社SHIFT社外取締役、株式会社ティーケーピー社外取締役を務める。また、全国各地からの講演依頼にも意力的に取り組み、地域社会の活性化に努めている。アパホテルネットワークとして全国最大の719ホテル110,395室(建築・設計中、海外、FC、アパ直参画ホテルを含む/2023年3月1日現在)を展開。年間宿泊数は約2,116万名(2020年11月期末実績)に上る。

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oneplus編集部

この記事の執筆者

  • 【アパホテル株式会社取締役社長 元谷芙美子氏 インタビュー】コロナ禍で業界大打撃でも「黒字経営」を続けられる経営哲学とは #1 苦境のときこそチャンスに変える「レジリエンス経営」

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