「固定負債」と聞いてどんなイメージを持つでしょうか。マイナスなイメージを持つ方もいらっしゃるでしょう。しかし、固定負債は事業活動をしていくなかで不可欠のもので、うまく使えば強い味方となるものです。
この記事では、固定負債の内容や流動負債との違い、識別方法等を解説します。正確に把握しておけば、将来の経営判断にも役立ちます。関係する財務指標についても解説していますので、是非理解を深めるためにご活用ください。
「固定負債」は負債の一種|負債とは?をおさえよう
負債とは企業活動で生じた債務|貸借対照表の右側を構成する区分
仕入を行ったり金銭を借りたりすると、将来の支払の義務が発生します。負債とは、こうした企業活動を行う中で生じた債務のことです。
資産の状態を表す貸借対照表では、負債は「資産をどのように調達したのか」を表す右側に記載されます。
負債は「他人資本」|負債が資産を上回った状態「債務超過」は危機的状況
貸借対照表の右側に記載されるものは純資産と負債があり、純資産は元手や売上から得た利益や出資金等の自分で集めたお金です。一方で、負債は借入金や買掛金等、他人から集めたお金であるため、「他人資本」であると言えます。
負債が資産を上回る「債務超過」は、すべての資産を支払に充てたとしても負債が残る状態です。資金調達を外部に大きく依存しているため、倒産のリスクが高いきわめて危機的な状況です。
負債は「固定負債」「流動負債」の2種類に分類できる
負債は2種類に分類することができます。詳しい基準は後述しますが、固定負債は長期的なもの、流動負債は短期的なものとして一般にとらえられています。
流動負債に対しては、支払を行うための現金等を速やかに確保しておく必要があります。また固定負債に対しては、期限までにどのように現金等を調達するかや、借入金を利用してどのように利益を生み出していくかなど、長期的な戦略を練る必要があります。
両者を識別して金額を把握しておくことで、それぞれに対する課題が見えるので、経営判断や戦略策定に役立ちます。
「固定負債」とは?定義と「流動負債との違い」識別の基準を確認しよう
【定義】固定負債とは支払期限が1年を超える負債のこと
貸借対照表には、資産や負債の性質を1年を基準として判断する「1年基準」があります。このルールに則って、1年以内に支払の期限が到来するものを「流動負債」、期限が1年を超えて先であるものを「固定負債」と呼びます。
【流動負債との違い】2つの基準に順に当てはめて識別する
両者の識別には、2つの基準があります。これらの基準に当てはめて考えることで、メインの事業活動に関するものかどうか、短期的なものか長期的なものかなど、自社の負債の持つ性質を再確認することにも役立ちます。詳しく見ていきましょう。
1.正常営業循環基準:通常の事業サイクルに当てはまるか?
営業活動は、商品を仕入れて販売し、そこから得た利益でさらに仕入を行うというサイクルで成り立っています。この営業サイクルの中で生じた負債はすべて流動負債と判断されます。どんな会社もこのサイクルで営業活動を行うため、仕入の費用の支払期限は、遅くても数か月先であることが一般的です。上で触れた「1年基準」から見ても、仕入費用は流動負債ととらえることができます。
2.1年基準:1年以内の支払義務があるか?
本業の営業活動とは別に、資金を借り入れたり運用したりする財務活動を行うこともあります。これは通常の営業サイクルではないため、正常営業循環基準には当てはまりません。この場合に基準となるのが、上でも触れた「1年基準」です。債務の返済期限が決算日より1年以内の場合は流動負債、1年を超える場合は固定負債と判断します。この基準によって判断されるものには、自社が発行する社債や長期借入金等があります。
固定負債にあたる勘定科目とは例えばどんなものがあるか?
1.社債|資金調達の目的で企業が有価証券を発行した場合の勘定科目
資金を集めるために、企業が発行することができるのが社債です。社債は返済期限を設け、利息をつけての返済を約束することで資金調達を行う、いわば借入金の性質を持ちます。社債は期間や金額、返済方法を幅広く設定でき、一般の投資家から直接資金調達を行う直接金融であるため、金融機関から間接的に借り入れる借入金とは区別して「社債」という勘定科目を使って仕訳を行います。返済期限は1年以上の長期となることが一般的であるため固定負債となりますが、年数が経って返済期限が1年以内に迫れば流動負債となります。
2.長期借入金|金融機関から1年を超える支払期限で借り入れた資金を計上する
資金調達には金融機関から借り入れを行う方法もあります。そのうち、返済期限が1年を超えるものが長期借入金です。また、1年以内に返済を行うものが短期借入金です。両者とも金融機関に申請し、審査に通過する必要があります。
ただし、長期借入金を分割して返済しており、その一部の返済が1年以内に行われる場合は、その金額は短期借入金として処理を行います。
3.長期未払金|1年を超える支払期限の未払金を計上する
建物や車両、設備等、高額なものを購入したときは割賦での支払が多く、数年単位となることもあります。商品以外で未来に支払義務のあるものは未払金で処理をしますが、1年以上先に支払う義務のあるものは長期未払金として区別し、固定負債に計上します。この場合も1年基準の考え方で、1年以内に支払うものは未払金、1年を超えるものは長期未払金として仕訳を行います。
4.負債の性質のある長期の引当金|特別修繕引当金や退職給付引当金等
将来発生する可能性のある支払に備えて、引当金を計上しておく場合があります。このような引当金を「負債性引当金」といいます。その中でも、1年を超えて使用されると考えられるものは、長期の負債性引当金として区別され、固定負債として計上します。具体的なものには、数年に一度改修を行うことを見越して計上しておく「特別修繕引当金」や、すぐには費用が発生しないと予想される「退職給付引当金」等があります。
5.預り保証金|契約や取引の際に担保として預かった保証金等
賃貸借契約や取引の際に、担保として預かる保証金も負債に含まれます。損害等があれば、預かり保証金からその額を差し引きますが、問題なく契約や取引が終了すれば全額返還します。このように、いずれ返還することを前提に預かっている保証金であるため、負債の性質を持っています。これを固定負債とするか流動負債とするかは、やはり契約や取引の期間に左右され、1年基準に従って識別します。
6.繰延税金負債|企業会計と税務の間で生じた差額の調整科目
会計処理と税法上の処理は、共通するものが大半ですが、異なる部分もあります。そのため、会計処理上の所得と、税法に則って算出した実際に支払うべき法人税額が対応しないケースが出てきます。その差を調整し、両者に整合性を持たせるための会計処理を「税効果会計」といいます。繰延税金負債は、税効果会計を行う際に使われる勘定科目です。
ただし、税効果会計で使われる科目は「繰延税金資産」が多く、繰延税金負債を使う機会は実際には多くありません。具体的には、固定資産の圧縮記帳の圧縮積立金や、持ち合い株式の評価益等、会計上の利益を税法上の益金に合わせるよう調整する場合のみです。
固定負債が関わる財務指標2つを解説
固定負債が関わる指標1.固定長期適合率
固定長期適合率は、会社の長期的な支払能力の安全性を測る財務指標です。この指標を求める場合は、固定負債と流動負債をしっかりと識別しておく必要があります。
固定長期適合率の概要と求め方
固定負債と自己資本の合計に対する固定資産の割合を示すもので、計算式は以下のようになります。
固定長期適合率(%)= 固定資産 ÷ (固定負債 + 自己資本)× 100
固定負債は長期的な負債であることを解説しましたが、それゆえに把握しておくと長期的な経営判断に役立ちます。短期的・長期的の二つの面で経営状態を把握することで、より健全な経営を行うことができます。
固定長期適合率の目安
両者が同額の場合の100%を基準として、数値が低いほど安全性が高く、健全な経営状態と言えます。逆に100%より高い場合は改善が必要で、120%程度までは要注意、150%程度になると危険と評価されます。
「固定資産が多いとなぜ経営状態が悪いと言えるのか?」と疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。多くの場合は、固定資産は多額の投資によって得た資産です。しかし毎期の減価償却によって費用化されるため、固定資産はいずれなくなるものと言えます。その費用を賄うためには資金を調達する必要があります。
自己資本は返済不要であるため、最も安定した資産です。固定負債は、将来は返済する必要がありますが、現在においては安定した資産としてみなされます。いずれ支払う必要のある費用を賄うだけの、安定した資産があるかを評価するのが固定長期適合率です。身の丈に合った投資を行っているかが判断できます。
固定負債が関わる指標2.自己資本比率
自己資本比率は、総資産における自己資本の比率を示す財務指標です。固定負債は、この指標を求める計算式には出てきませんが、自己資本比率を大きく左右する要素の一つです。
自己資本比率の概要と求め方
貸借対照表では資産の額と、負債と純資産の合計額は一致します。なお、純資産は自己資産のほかに新株予約権と連結決算の場合の被支配株主持分を加えたものです。ここでは同じものとして考えても良いでしょう。
自己資本率(%) = 自己資本 ÷ 総資産 × 100
所有しているすべての資産のうち、返済不要なものの比率を表すため、比率が高いほど他人資本の影響を受けにくく、経営状態が良いと言えます。
自己資本比率の業種別の目安
自己資本比率は、業種によって違いがあります。
負債が多くなるほど、自己資本比率は下がります。特に、機械や設備等の固定資産を必要とする製造業は、購入費用を借入金で賄うことが多いものです。その結果固定負債が増加して自己資本比率が低くなる傾向にあり、20%ほどが目安とされています。
商社や卸売業等では、売掛金や商品等の流動資産が多く、自己資本比率の目安は15%ほどです。また、固定資産をあまり必要としない情報通信業等では、40%を超える企業もあります。
まとめ
将来的には支払う義務のある固定負債ですが、その主なものである借入金や長期未払金は会社が成長していくなかで必要不可欠のものです。その時には大きな負債でも、将来的に大きな利益を生み出すことにつなげていくことができれば、強い味方となってくれるのです。
ただし、負債であることには変わりないため、将来の負担にならないよう計画的に考える必要があります。また、負債を避けようとするあまり会社の成長のチャンスを逃すこともあり得るため、バランスを考えた活用が大切です。
また、固定負債は経営判断や将来の計画や戦略を策定するときに役立つ指標にも大きくかかわってきます。日頃から固定負債と流動負債を識別し、正確に把握しておきましょう。