財務諸表監査は企業の経営にも関わる重要な調査です。しかし、実際にどのような目的で行われているかわからないという人も多いと思います。本記事では、財務諸表監査の目的や受ける際の注意点を、ほかの会計監査を交えながら詳しく解説していきます。
財務諸表監査とは何か?
監査には、企業の経済活動や経営状況に関する情報を客観的に評価し、伝達する目的があります。そして財務諸表監査とは、公認会計士や監査法人が財務諸表に対して行う会計監査の一部のことです。
この監査は、
・賃借対照表の資本金が5億円以上
・負債の部の合計額が200億円以上
の条件を満たす大企業に義務付けられています。
ここではさらに詳しく内容や目的を解説していきます。
そもそも財務諸表とは?
財務諸表とはいわゆる決算書のことです。企業が事業報告のための書類で、その年の利益や資産等、会社のお金の流れを確認することができるため、経営状況を把握するのに重要な役割があります。
主に財務三表と呼ばれる、
・貸借対照表
・損益計算書
・キャッシュフロー計算書
の3つの書類で構成されています。
これらは基本的に企業会計の基準に準拠して作成する必要があるため、上場会社等では財務諸表の内容について、監査を受けることが義務付けられています。
会計監査の一部
財務諸表監査とは、会計監査に含まれる監査の一つです。まず、会計監査は「内部監査」と「外部監査」の2つに分けられます。さらに外部監査は会社法によって定められた「会社法監査」と、金融証券取引法によって定められた「金融証券取引法監査」の2つに分けられます。
この内の金融証券取引法監査において、「財務諸表監査」と「内部統制監査」の2つの実施が定められているというわけです。
財務諸表監査の目的
監査の目的は、作成された財務諸表が企業会計の基準に準拠しているか、不正やミスがないか確認することです。この調査により、企業は書類の信頼性を高めることができます。
そして、もう一つ重要な目的があります。それは株主や債権者、投資家を保護するためです。監査を行うことで、企業は自社の利益や経営状況を正しく公開することができます。それにより、株主や債権者、投資家は正しい情報を用いて適切な判断を下すことができると言えるでしょう。
監査が行われる時期
監査の種類によって時期は異なります。金融証券取引法監査は少なくとも2か月に1回は会社を訪問する必要があります。そして、企業の規模が多いほど訪問回数は増えるでしょう。また、会計監査は財務諸表が適切に作成されているか確認する必要があるため、決算を終えた直後に必ず実施されます。
企業で実施される会計監査の種類3つ
会計監査の内容はさらに細かく分類されています。ここでは「外部監査」「内部監査」「監査役監査」の3つに分けて、その業務内容について紹介していきます。
1.外部監査
会社法監査と金融証券取引法監査の2つがあり、実施するのは公認会計士や監査法人です。会社法監査では、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算表、個別注記表とそれらに関連する明細書のチェックを行います。
金融証券取引法監査では、財務諸表監査と内部統制監査が実施され、財務諸表の内容と内部統制報告書の内容が適切であるかチェックします。
2.内部監査
経営者が経営管理をスムーズに進めるために、組織内で独自に行われる監査です。業務活動から独立した部門として組織編成された内部監査人によって実施されます。
これは企業の監査役が経営者の判断を受けて、売上向上や経営状態を改善することを目的としています。これにより、企業内の不正防止・発見や業務の効率化が期待できるでしょう。
3.監査役監査
実施するのは監査役員や監査委員会です。実施者は会社法で規定される役員であり、株主総会にて選任されます。監査を受ける企業の取締役の職務について調査することで、決定事項に違法性がないか、判断に問題がないか等の確認が可能です。
そしてこれらを明らかにすることは、株主の利益を守ることに繋がります。この監査において経営者の職務に違法性や不当な行為が見つかった場合は、監査役はそれを止めさせ、正す債務を負っています。
会計監査を受ける際の注意点
ここでは監査を受ける際、事前に準備が必要なことや、やっておいた方が良いこと等を紹介していきます。監査で不備があれば改めて資料を用意する手間が増えるだけではなく、企業の社会的信頼を下げることにも繋がりかねません。そのため、事前準備はしっかり行いましょう。
必要な資料の準備を行う
監査では様々な資料の調査を行います。調査がスムーズに進むよう、事前に必要な資料を準備しましょう。必要な書類の例を以下に挙げておきます。
・株主総会の議事録や株主名簿
・取締役会議事録
・貸借対照表
・売掛金等残高証明書
・請求書や領収書、小口現金伝票
・ローン契約書や賃貸契約書
・仕入先一覧表
・棚卸表
・固定資産台帳
・銀行の預金通帳や取引明細書
・総勘定元帳データや勘定明細
基本的に準備する資料は、事前に会計監査法人がリストアップするため、リストに従って作成・準備すれば問題ありません。ただし、何か不備がある場合は追加資料を求められることもありますので注意しましょう。
監査の具体的な内容を理解しておく
監査では、用意した書類内容についてヒアリングが行われます。書類の詳細について尋ねられることもあるため、すぐに回答できるよう資料の内容は把握しておきましょう。
回答できなかったり、回答内容が曖昧だったりすると、追加資料を求められることもあります。どのような質問をされても大丈夫なように、事前に質問されそうなことを予想してシミュレーションしておくと、監査の際もスムーズに回答ができるでしょう。
資料が最新のものであるか確認を行う
監査内容に企業内規程の確認があります。事前に定款や経理規程、就業規則等の内容に問題はないか、最新の内容が反映されているか等チェックしておきましょう。
また、固定資産台帳にも注意が必要です。年度末に資産の購入や、固定資産や備品の除却等が発生するため、タイミングによっては固定資産台帳を変更する必要があります。
会計監査によって得られる効果
これらの監査によって書類の不正やミスがないか確認する事ができますが、企業にとっては具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは監査を受けることで得られる効果について紹介していきます。
経営に影響するリスクの回避
企業の経営状態に影響を及ぼすリスクを未然に防ぐことができます。
例えば、
・税額計算の不備を確認することで税金の過大納付を防ぐ
・手持ちの現金や預金不足により、仕入代金の支払いや経費等の支払い資金が不足してしまう資金ショートを防ぐ
・労働環境の問題による訴訟リスクの回避
・コンプライアンス違反を防ぐ
といった事が挙げられます。
社会的信頼が高まる
監査を行うのは第三者であり、監査のプロです。そのプロに財務諸表に不正やミスがないか確認してもらうことで、財務情報の信頼性を高める事ができます。会社の利益や経営状況を正しく公開することは、株主や債権者、投資家からの信頼を得ることにも繋がるでしょう。特に社会福祉法人や医療法人制度全体の社会的信頼性の向上に役立ちます。
まとめ:財務諸表監査には事前準備して挑みましょう
財務諸表監査は、企業の利益や経営状況を適切に外部へ公開するために欠かせない調査です。監査には様々な種類がありますが、会計監査の一部であるということは覚えておきましょう。
また、企業にとってもリスク回避や信頼の向上といったメリットがあります。資料の準備や受け答えのシミュレーションをして万全の状態で監査を受けられるようにしておきましょう。