「会社が問題なく成長しているか確認する方法はあるのだろうか?」「成長性分析とはどういったものだろう?」と考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
会社の順調な成長を望むのであれば、利益にばかり目をむけるのではなく、「成長性」を把握しなければなりません。
今回の記事では「成長性分析」によってわかることや、指標の詳細・評価の注意点について解説しますので、是非参考にしてください。
財務分析の5つの分類のひとつ|成長性分析とは?
成長性分析とは経営状態の成長の可能性を評価する財務分析のひとつ
成長性分析とは、経営状態の成長の可能性を評価するための財務分析のひとつです。
成長性とは、売上高や総資本がどれくらい変化したかを分析することによって、将来的に企業が業績を伸ばせるかどうかの可能性を計ることです。
また成長性は、単純に売上高が増えているからといって好調であるとは判断できません。売上高が増えたとしても利益が減少した場合は、その原因を把握する必要があります。利益が出ていない原因が、コストのかかりすぎによるものなのか、設備投資によるものなのか等、様々な指標を用いて成長性を総合的に判断しなければなりません。
その他の財務指標についても知りたい方はこちらをご覧ください。
>>経営判断に役立つ財務指標とは?5つの分類と最低限の指標を解説
>>財務分析の1つ「収益性分析」とは?指標の特徴や評価のやり方
成長性分析を行う目的は、成長度合いの目途をつけることで今後の見通しを立てること
成長性分析を行う目的は、その結果を元に成長度合いの目途をつけることで、企業の安定拡大に向けて、今度の見通しを立てることです。
まずは、自社の現在の売上高や利益等の数値と、前年や過去数年における数値の推移を比べてみましょう。その結果、問題点があれば原因を明確にして対策することで、今後どれだけ成長できるかを想定できるのです。
また、同業他社との比較も、自社の特徴や優れている所、劣っている所を把握できるので、業績アップに繋げるために大切になります。
成長性分析を行うために必要なデータは貸借対照表と損益計算書
成長性分析に必要なデータは、貸借対照表と損益計算書から集めることができます。
貸借対照表は、資産と負債・純資産の内訳を一覧表にしたもので、企業の財政状況や資金調達方法について確認できる財務諸表のひとつです。
損益計算書は、1年間の経営成績を表したもので、収益・費用・利益が記載されています。売上がどれくらいあったのか、費用を何に使ったのか、利益がどのくらい出たのかを確認できる財務諸表のひとつです。
これから解説する成長性分析の7つの指標は、従業員数を除いたすべてのデータを貸借対照表と損益計算書から算出できるので、すぐに分析に取り組めます。
成長性分析に用いる主な指標と評価する目安
1.売上高増加率|概要・計算式・目安
売上高増加率は、成長性分析の代表的な指標で、前期の売上高に対して今期の売上高をどれくらい伸ばせたかを表す指標です。
前期と比べて増加率が高い場合は、売上高が増えているのでプラス成長と考えられますが、低い場合はマイナス成長となるので衰退のリスクが高くなります。
また、売上高増加率は前年だけでなく、過年度における値の推移と比べることによって成長性を判断しましょう。
売上高増加率 = (当期売上高ー前期売上高) ÷ 前期売上高 × 100
売上高増加率を評価する目安
売上高増加率の評価の目安は、一般的に次の5種類に分類されます。
- 超優良水準・・・6%~20%
- 安全水準・・・・0%~5%
- 準危険水準・・・-1%~-10%
- 危険水準・・・・-11%~-20%または+21%以上
- 超危険水準・・・-21%以上
比率が高い方が成長していると言えますが、21%を超えると逆に危険水準になってしまうので注意が必要です。急激な成長によって業務量が大幅に増え、負担が大きくなることから、人員不足や品質の低下等、組織や管理面において問題が生じる危険があるからです。
2.経常利益増加率|概要・計算式・目安
経常利益増加率は、前期よりも経常利益がどれくらい増えたかを表す指標です。経常利益は、本業で稼いだ利益に財務活動等による営業外収益と営業外費用を含めた、企業の総合的な利益となります。
経常利益増加率は、前述した売上高増加率とセットで見られることが多く、どちらの指標も比率が高くなると企業経営において望ましい状態にあると言えます。
経常利益増加率 = (当期経常利益ー前期経常利益) ÷ 前期経常利益 × 100
経常利益増加率を評価する目安
経常利益増加率を評価する目安として、プラスの場合は「成長」、マイナスの場合は「衰退」、ゼロの場合は「横ばい状態」と判断できます。また、売上高増加率と比較することで、問題点の把握に役立てることも可能です。
売上高増加率が高いにも関わらず経常利益増加率が低い場合は、販売費等のコストがかかりすぎていることが考えられます。
反対に、売上高増加率が低くても経常利益増加率が高い場合は、コストの削減等の対策が効果的に行われていると考えられるので、成長が見込める企業と言えるでしょう。
3.営業利益増加率|概要・計算式
営業利益増加率は、前期よりも営業利益がどれくらい増えたかを表す指標です。
営業利益増加率は、営業活動によって稼いだ「本業」の利益の比率を表しており、本業での成長性を判断できます。営業利益増加率が減少している場合は、本業による利益が少ない状態にあるので、経営が悪化している可能性があります。
もし経常利益増加率がプラスになっていたとしても、資産運用等によって得た営業外収益によるものなので、本業の売上を伸ばす対策が必要になるでしょう。
営業利益増加率 = (当期営業利益ー前期営業利益) ÷ 前期営業利益 × 100
4.総資本増加率|概要・計算式
総資本増加率は、総資本が前期からどれくらい増えたかを表す指標で、企業の規模が拡大しているかどうかを判断できます。総資本は自己資本(株等の返済の必要がない資本)と他人資本(借入金や社債等の負債)の合計を指しており、継続して総資本が増えていく状態が望ましいです。
ただし、総資本増加率は借入金等の負債の増加によっても値が高くなってしまうので、注意が必要です。そのため、基本的に「純資本増加率」と一緒に分析されます。
総資本増加率 = (当期総資本ー前期総資本) ÷ 前期総資本 × 100
5.純資本増加率|概要・計算式
純資本増加率は、純資本が前期からどれくらい増えたかを表す指標です。純資本とは、総資本から他人資本である負債を差し引いた資本のことで、自己資本とも呼ばれます。
純資本増加率が高い場合は、自己資本を蓄えることができているので、安全性の高い企業と言えるのです。
したがって、前述したように総資本増加率と一緒に分析することで、事業規模が拡大しているかどうかや、企業の安全性について把握できます。
純資本増加率 = (当期末純資本残高ー前期末純資本残高) ÷ 前期末純資本残高 × 100
6.従業員増加率|概要・計算式・目安
従業員増加率は、前期と比べて従業員数がどれくらい増減したかを表す指標です。
売上高の増加によって事業規模が拡大すると、増大した業務量に対応するため、より多くの人員が必要になります。そのため、従業員数の増加は、事業規模の拡大を意味しているので、このことからも企業の成長性を判断できるのです。
ただし、設備やシステムの導入によって業務を効率化すれば、業務に割く人員の削減が可能になります。設備投資等を積極的に行っている場合は、利益が増えているにも関わらず従業員数は減ることもあるのです。
したがって、従業員増加率だけを見て成長性を評価することはできません。
従業員増加率 = (当期従業員数ー前期従業員数) ÷ 前期従業員数 × 100
従業員増加率を評価する目安
従業員増加率は、業種によって大きく異なります。また、前述したように設備投資等によって人員削減に成功して、従業員が減少している可能性もありますので、成長性を評価する上で目安を立てることはできません。
従業員増加率は、単独ではなく、ほかの指標と一緒に分析して判断するようにしましょう。
7.有形固定資産伸び率|概要・計算式
有形固定資産伸び率は、前期の有形固定資産に対して今期の有形固定資産がどれくらい増えたかを表す指標です。
有形固定資産とは、企業が営業活動において長期的に使用するために保有する「目に見える」資産を指します。
有形固定資産に該当するものは、土地、建物、建物付属設備、機械装置、工具器具備品、車両運搬具等です。
企業が成長するためには、設備投資が必要不可欠であるため、有形固定資産の伸び率を見ることによって成長性を判断できるのです。
ただし、例えばサービス業等、設備投資をする必要がない業種の場合は、有形固定資産伸び率は、あまり参考にならないでしょう。
有形固定資産伸び率 = (当期有形固定資産ー前期有形固定資産) ÷ 前期有形固定資産 × 100
【評価方法の基本】成長性分析の指標値は他社や、自社の過年度の値と比較してみる
成長性分析の指標値は、同業他社と比べてみることが大切です。同業他社と比べると、自社の強みや弱点等を把握できるので、経営戦略を立てる際にも役立ちます。
指標は比率で算出されるので、事業規模の大小に関係なく他社と比べることが可能です。
また、自社の過年度の指標値と比べて自社の状態を正しく理解することが重要になります。過去の業績と比べることで、どこに問題点があるのかを把握できるので、適切な経営判断が可能になるでしょう。
成長性分析を行い評価する際の注意点
成長性分析を行い評価する際に注意しなければならない点は、指標の値が「高ければ良い」というわけではないことです。
例えば、従業員増加率においては、高いばかりが良いとは限りません。管理・経理部門等の非生産部門を合理化して、人の手を介さずにこなしていくような仕組みに投資する方が、全体最適である可能性が大いにあるからです。
ほかにも、売上高増加率が急激に増加すると、業務量に対応しきれずに商品やサービスの質が低下してしまう等、様々な問題が生じる恐れがあります。
成長性分析は、ひとつの指標値の高い・低いで評価するのではなく、ほかの指標とのバランスが大切になります。そのため、複数の指標やほかの分析方法の指標も取り入れて、総合的に評価することが大切です。
成長性分析の知識まとめ
今回の記事では、成長性分析をするための様々な指標と評価のやり方や注意点について解説しました。
成長性分析は、企業が継続して業績を上げていくための有効な財務分析と言えます。企業経営に有効活用するためには、指標値の増減の原因を把握して正しく評価することと、複数の指標を用いて総合的に評価することが重要です。
同業他社との競争に負けないためにも、自社の状況を把握して、これから行うべき対策を明確にしましょう。