企業の安全性や倒産のリスクを知るための手法として、安全性分析が有効です。
安全性分析にはいくつかの財務指標があります。
そこで本記事では安全性分析と、その中の代表的な8つの財務指標についてまとめました。
財務分析の分類のひとつ・安全性分析とは? その必要性を解説
安全性分析とは財務分析のひとつで、財務諸表から企業の資金繰り、倒産リスク、健全性等を確認できます。
分析を通じて、企業の状況、傾向、課題について知ることができるため、今後企業としてどうしていくべきかの経営判断に役立てることが可能です。
以下では安全性分析の必要性と重要視される理由について説明します。
安全性分析とは「企業の資金繰りの健全性」を評価する財務指標の総称
安全性分析とは、企業の資金繰りや健全性を読み解く財務分析手法のひとつです。
決算書や貸借対照表等から企業の持つ負債と資本のバランスを見て、
- この企業には支払い能力があるのか
- 資金繰りは安定しているか
- 倒産するリスクはないか
等を判断します。
企業によっては、収益があるはずなのに支払い能力が低く、結果的に倒産をしてしまう場合があります。
そうならないために安全性分析を行うことで、企業の資金繰りの状況や倒産リスクを事前に把握し、経営判断に役立てることが可能なのです。
安全性分析が収益性分析と並んで重要視される理由
収益性分析とは、企業がどれだけ利益を獲得しているかを読み解く財務分析手法です。
この収益性分析と並び、安全性分析が重要な指標として見られているのはなぜなのでしょうか。
一見順調な会社でも起こる「黒字倒産」とは何なのか?
黒字倒産とは、帳簿上では利益が出ているけれど、会社が倒産してしまうことです。
例えば、商品を販売したけれど、入金が数か月先だった場合があるとします。入金が先だとしても、会社には毎月仕入代や人件費等様々な支払いが発生しています。
会社としては売上もあり利益が出ている。しかし、実際支払いをしなければいけない時に資金が不足してしまう。
こういった場合に、黒字倒産という事態が発生してしまうのです。
安全性分析で黒字倒産のリスクを知ることができる
一見すると利益も出ており、順調に見えても、資金不足により倒産してしまう場合があります。
このように黒字でも倒産してしまう企業は、安全性分析上、資金繰りが適切とは言えません。
収益性分析で企業の利益獲得力を知るだけでは、倒産リスクを知ることはできません。その一方で安全性分析は、企業の倒産リスクを分析する指標であるとも言われています。
そのため、収益性分析だけではなく、あわせて安全性分析を行うことで企業の健全性をみることは重要なポイントです。
安全性分析を行うために必要な書類「財務諸表」
安全性分析は、財務諸表を用いて行います。財務諸表とは、企業の1年間の財政や経営状態を数字でまとめたものです。
以下では、安全性分析に必要な財務諸表の中身や役割についてご紹介します。
財務諸表とは企業の成績表のようなもの・別名「決算書」
財務諸表とは、一般的に決算書と呼ばれるものです。企業の1年間の経営成績をまとめた計算書となっており、企業の売上や費用、利益はどのくらいあり、損失はどのくらい出たのか等詳細な内訳を知ることができます。
財務諸表をみることで、外部の人はもちろん経営者や社員が、自社の状況を客観的に理解し、今後の戦略に役立てていくための資料にもなります。
財務諸表の主だったものは「財務三表」
財務諸表は様々な書類で構成されますが、中でも特に重要なものが、財務三表と呼ばれる以下3つの書類です。
- 貸借対照表:資産と負債から企業の財政状況を管理する書類
- 損益計算書:収益と費用から企業の経営成績を管理する書類
- キャッシュフロー計算書:企業のお金の流れを管理する書類
書類に応じて、確認する項目が異なり、企業がどんなことにお金を使っているのかを知るものもあれば、資産と負債のバランスから財務状況を把握するもの等があります。
特に安全性分析においては、貸借対照表を中心に分析を行います。
貸借対照表では、資産と負債のバランスを知ることができるため、企業の資金繰りや、倒産リスクはないかといった点を知ることが可能です。
短期的な安全性を評価する安全性分析の指標3つ
安全性を評価する指標について、大きく分けて短期的なものと長期的なものの2種類あります。
短期的な安全性においては3つの財務分析指標があり、以下ではその3つの指標について説明します。
「短期的な安全性」とは短いスパンでの支払い能力の評価
短期的な安全性とは、短期間における企業の支払い能力のことです。
例えば、資金繰りが悪く支払い能力が滞っている企業は、すぐに倒産に陥ってしまいます。利益を上げていても黒字倒産してしまう場合もあるため、短期間における企業の支払い能力に問題ないかは、最初に確認すべき大切な項目です。
短期的な安全性については、おおむね1年以内の企業の支払い能力、倒産リスクを評価します。この短期的な安全性に関して、以下の3つが主な財務指標となります。
- 流動比率
- 当座比率
- 現預金月商比率
以降ではこの3つの指標について詳しく説明します。
短期的な安全性分析の指標1:流動比率
流動比率とは、流動負債に対する流動資産の割合を示すものです。
流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100 |
流動資産とは、1年以内に現金化の見込みがある資産です。一方、流動負債とは1年以内に支払いが見込まれる負債のことを表します。
例えば、流動資産が流動負債を下回った場合は、1年以内の支払いが難しくなります。一方で、流動資産が流動負債より大きければ、1年以内の支払いは問題ありません。
以上のことから、流動比率が100%を下回る場合は、短期的な支払い能力に不安があると読み解くことができます。反対に、100%を超える場合は短期的な支払い能力に問題ない企業であると判断することが可能です。
短期的な安全性分析の指標2:当座比率
当座比率とは、流動負債に対して当座資産の割合を表すものです。
当座比率(%)=当座資産÷流動負債✕100 |
当座資産とは、流動資産の中でも比較的すぐに現金化できる資産のことを表します。
当座資産は、流動資産と似ているように思いますが、流動資産には棚卸資産を含みます。棚卸資産は売れないと現金化されない資産であるため、確実に現金化できると言い切ることができません。一方、当座資産は棚卸資産を含まないため、より現金化しやすい資産による指標となります。
そのため、当座比率は、流動比率よりもより厳しく短期的な支払い能力があるかを判断する指標であると言えます。
短期的な安全性分析の指標3:現預金月商比率
現金預金月商比率とは、月商に対して現預金や短期有価証券の占める割合を表します。
現預金月商比率=(現金+預金+短期有価証券)÷月商 |
有価証券や現預金はすぐに支払いへ充当できる資産のため、手元流動資産とも呼ばれます。
例えば、流動比率が100%未満であっても支払いが可能な限り会社が倒産することはありません。しかし、流動比率が100%を超え高い数値であっても、何らかの事情で支払い可能な資金がない場合は、会社は倒産してしまいます。
つまり、手元に現預金が潤沢にあれば、万が一の時にすぐに支払いに充てることが可能なため、倒産を防ぐことが可能です。
現預金月商比率とは、手元にすぐ動かせるお金がどれだけあれば倒産を回避できるのか、安全なのかを示す指標と言えます。
長期的な安全性を評価する安全性分析の指標4つ
長期的な安全性とは、長期における企業の支払い能力に問題がないかを見ます。
この長期的な安全性をみる上で、安全性分析上、評価される以下の4つの指標があります。
- 自己資本比率
- 固定比率
- 固定長期適合比率
- 有利子負債月商率
以降では、それらの指標について説明をします。
「長期的な安全性」とは資金調達の構造が安定しているかを評価
長期的な安全性があるということは、長期的に見て支払い能力があるということになります。が、短期的な安全性の時とは異なり、企業全体としての安定性をみることに繋がります。
長期的な安全性をみる場合は、何か大きな買い物をした時に自己資本で賄えるか、売上に対して負債が多くないか等の点をみます。そのため、資金調達の構造や企業全体の安定性が評価へと繋がるのです。
長期的な安全性分析の指標1:自己資本比率
自己資本比率とは、総資本のうち自己資本の占める割合を表します。
自己資本比率(%)=自己資本÷総資本×100 |
自己資本とは、株主からの資本金や資本剰余金、企業で内部留保された利益である利益剰余金から成り立ちます。これらは第三者に返済したり、負債利子のつくものではありません。
つまり、自己資本比率が高いということは、過去から業績が安定していることを表すと同時に、借金が少なく支払い能力が高いことを表しています。これは、外の債権者に対しても、企業の安定性を示す指標となります。
長期的な安全性分析の指標2:固定比率
固定比率とは、自己資本に占める固定資産の割合を表します。
固定比率(%)=固定資産÷自己資本(純資産)×100 |
固定資産とは、機械設備、土地、建物等、1年以内に回収を予定していない資産のことを指します。
例えば、1,000万の自己資本しかないにも関わらず、2,000万の固定資産となる機械を購入しようとすると、借金1,000万をしなければいけません。借金返済できる目処がある、対策を講じてある等理由があれば問題ありません。しかし、そうでない場合は、会社の経営としては不安定な状態となってしまいます。
固定資産は長期で使用するものであり、何かあった時、流動資産のように現金化して短期で回収することはできません。そのため、可能な限り借金に依存しない自己資本で調達できることが望ましいと言えます。
長期的な安全性分析の指標3:固定長期適合比率
固定長期適合比率とは、自己資本と固定負債を合計したものに対して固定資産が占める割合を表します。固定負債とは、1年以内に返済期限がない負債のことを指し、長期借入金がこれにあたります。
固定長期適合率(%)=固定資産÷{自己資本(純資産)+固定負債}×100 |
固定資産になるものを購入する際、毎回自己資産ですべて賄うことができれば一番理想ですが、現実的に無借金経営は簡単にできることではありません。
借金をするにしても、長期借入金であれば、返済期間は1年以上ありますから、すぐに会社の経営を圧迫する、倒産するといったことは考えにくいと言えます。
固定比率が100%を超えていたとしても、固定長期適合比率をみることで、長期借入金をした上であれば、財務上安定して設備投資を実施できるかをみることが可能となるのです。
長期的な安全性分析の指標4:有利子負債月商比率
有利子負債月商比率とは、有利子負債合計が月商の何か月分あるかを表します。
有利子負債月商比率=(短期借入金+長期借入金+社債)÷(売上高÷月数) |
当然負債が少ない方が良いため、有利子負債月商比率が低い方が安全性が高いと言えます。
一般的に、月商の3か月以内であれば、問題ないとされていますが、6か月を超えてくると資金繰りが難しくなるため注意が必要です。
金融機関が安全性分析に用いる指標:インタレスト・カバレッジ・レシオ
インタレスト・カバレッジ・レシオとは、安全性分析の指標のひとつで、金利負担能力をみます。計算式は以下となり、事業利益が支払利息をどれだけカバーできているかを表しています。
インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息+受取配当金)÷支払利息 |
インタレスト・カバレッジ・レシオは、金融機関が用いる安全性分析の指標のひとつです。
金融機関が企業の借入金返済能力をみる場合は、利息が滞りなく支払われるかは重要なポイントになります。その場合に使われる指標が、インタレスト・カバレッジ・レシオです。
安全性分析を行ったら~結果の利用方法~
安全性分析を行うことにより、企業の状況や傾向が見えてきます。
自社の過去と今を比較したり、競合他社と比較したりすることで、何が自社には足りないのか、何か自社の強みなのかを客観的に分析し把握しましょう。そうすることで、今後の自社の経営課題が明らかになりますし、どう戦略を立てていくかにも分析結果を役立てることが可能です。
しかし、「安全性分析をしていれば倒産しない」「この指標を見ておけば絶対に問題ない」といったものはありません。各数値や、財務諸表にはない、市場の動向や流れも含めて、総合的にバランス良く見て判断することが大切です。
自社の安全性を高めるために意識したいポイント
安全性分析について説明してきましたが、自社の安全性を高めるために普段から意識したいポイントが2つあります。
- 資金繰りを悪化させないこと
- キャッシュフローを意識すること
ひとつめは、短期的な安全性の視点から、資金繰りを悪化させないようにすることです。資金繰りが悪化すれば、資金ショートし、企業の倒産危機となります。
そうならないよう、資金管理を日頃から行ったり、掛け金の回収を早めたり等と、可能な部分から改善を行えると良いでしょう。
2つめは、長期的な安全性の視点から、キャッシュフローを意識することです。計算上利益が出ていても、お金が本当に手元に残っていなければ安全とは言えません。
売上目標を設定することも大事ですが、同時に貸借対照表で、現預金や資産の目標値を定め、安全な経営が行えるよう意識できると良いでしょう。
【まとめ】安全性分析に必要な8つの財務指標を押さえよう
以上、企業の安全性分析に必要な8つの財務指標をご紹介しました。
安全性分析には主に短期と長期の指標があり、それぞれから倒産リスクや、資金の調達構造の安定性、企業の安全性を確認することが可能です。
慣れないうちは難しく思えますが、各指標の計算式はシンプルです。自社の過去であったり、競合他社を分析比較し、自社を理想の状態へ近づいて行けるよう経営判断に役立てて行けると良いでしょう。
本記事が、安全性分析の理解と今後の参考になれば幸いです。