企業を経営する上で、資金調達のために金融機関から融資を受けることを検討することがあるかと思います。金融機関が融資の可否判断する上で重要視されるのが、自己資本比率という経営指標です。
融資において重要なだけでなく、自社の財務基盤等の健全性を確かめるためにも知っておきたいものとなります。
そこで今回は自己資本比率とはどのようなものかに加え、適正な水準やどうすればその比率を向上させられるかについてご紹介します。
是非、最後までお付き合いください。
【自己資本比率とは】意味や重要性を解説
自己資本比率とは:総資本と自己資本の比率
自己資本比率とは総資本における自己資本の割合です。企業の財政状態が安全かどうかを示す経営指標で、銀行の融資審査等で往々にして活用されます。
一般的に見てこの比率が高いほど、安全性が高い状態です。
【目安】
- 50パーセント以上:優良
- 10パーセント未満:危険
目安は業種により差があります。設備投資が比較的少ない業種は、比率が高い傾向です。企業平均は、40パーセント程度となります。
業界ごとの詳しい目安は、こちらをご参照ください。
そもそも自己資本とはどのようなものでしょうか。
自己資本とは:返済が必要ない資金
自己資本とは内部で調達した事業資金です。元手とも呼ばれます。資本金等の純資産から、新株予約権と非支配株主持分を除いた部分です。具体的には、以下のものが該当します。
- 内部留保や減価償却費の取り崩しによる自己金融
- 株式の発行による直接金融
企業外部から調達した借入金等とは違って、返済の必要がないのが特徴です。金利を支払う必要もありません。
総資本とは:純資産(自己資本)と負債(他人資本)の合計
自己資本比率の計算に必要な総資本とはどのようなものでしょうか。先ほどご説明した自己資本と他人資本を合算したものです。
他人資本についても軽く触れておきましょう。負債とも呼ばれる、企業外部から調達したお金です。以下のものが、該当します。
- 社債の発行による直接金融
- 金融機関からの借入等の間接金融
企業外部から調達しているため、返済の必要があり金利も発生します。
なぜ企業全体のお金に対する内部調達したお金の比率を計算するのでしょうか。
自己資本比率はなぜ重要なのか?
先述したとおり、この比率は財政状態が安全かどうかを表す経営指標です。同程度の規模の企業や同業他社の比率を比較することで、企業の健全性・安全性を見極められるという点で重要です。
比率が高ければ、返済義務のないお金を中心として企業経営をしていて資金調達が健全かつ安全だと判断できます。
逆に他人資本の比率が高ければ、有事の際に返済と利息に苦しむリスクを抱えていると言える状況です。
次は、この比率をどのように算出するかについて説明します。
【自己資本比率の求め方】計算式を紹介
比率は以下の公式で算出します。
自己資本比率=自己資本(純資産) ÷ 総資本(自己資本+他人資本) × 100
【例】自己資本が1,600万円・他人資本が3,400万円の企業
1,600万円÷(1,600万円+3,400万円)×100=32パーセント
公式だけを見ると難解なもののように感じますが、実際に数値を代入すれば意外と簡単に算出できます。算出に必要な数値はバランスシートから拾えますから、是非試してみてください。
さて、先ほど申し上げたとおり、業界ごとにこの比率のアベレージが異なります。より詳しく見ていきましょう。
【自己資本比率の評価】業種別からわかる目安
令和元年の中小企業実態基本調査報告書によると、中小企業の業種別のアベレージは以下の通りです。
(%)
全体平均 | 40.92 |
建設業 | 43.23 |
製造業 | 44.65 |
情報通信業 | 54.25 |
運輸業、郵便業 | 35.46 |
卸売業 | 41.03 |
小売業 | 30.99 |
不動産業、物品賃貸業 | 39.94 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 49.72 |
宿泊業、飲食サービス業 | 15.21 |
生活関連サービス業、娯楽業 | 33.42 |
サービス業 | 48.34 |
参考:中小企業庁
全体として非常に高い比率です。
1990年代のアベレージは35パーセント程度でした。それより上昇しているのは、バブル崩壊後の金融危機やリーマンショック等を経て、企業が資金不足で倒産するのを防ぐために一層自己資本を増やすことに力点をおいたものだと考えられます。
コロナ禍における急激な業績悪化が起きても、破綻・倒産した企業が少なかったのは、この自己資本比率の高さによるものでしょう。
【自己資本比率の数値の見方】高い場合と低い場合
自己資本比率の高い企業のメリット・デメリットとは
ここまでの説明を読んでいると、この比率が高ければ高いほどよいように思えるかもしれません。しかし、メリットもあればデメリットもあります。
メリット:経営の安定・融資を受けやすい
自己資本比率が高いメリットは主に2つあります。
- 企業経営が安定しやすい:
借入金・融資等に依存した経営状態ではありません。資金調達・財務基盤が安定していると判断できます。 - 融資の審査が通りやすい:
金融機関から、経営が堅実な企業と見なされ融資が受けやすい傾向にあります。金融機関は貸倒れを恐れますから、企業の健全性は重要です。
融資の可否を決めるスコアリング(格付け)は、この比率以外にも市場の動向・経営状態・競合状態等の視点からも行われます。
デメリット:高すぎる場合は評価されない可能性も
自己資本比率がある程度高くなければ、倒産が危ぶまれます。しかし、高すぎるのも問題があると見なされるでしょう。
無借金経営のように借金がまったくなかったり、あるいは殆どなかったりするのは好ましいようにも思えます。しかし、金融機関から融資を受けるだけの信用がないとも言い切れません。
加えて、収益性・成長性の観点から言えば、この比率が高すぎることはマイナス材料です。株主の立場から言えば、企業には許容範囲の借金をしてでも資金を有効に活用し、利益を上げることが求められます。よって、この比率が高いということは、経営の安定性のために、成長や収益の最大化が行われていないと判断されかねません。
自己資本比率の低い企業のデメリットとは
明らかに比率が少ない場合は、財務基盤が脆弱であると考えられます。他人資本に依存している状態です。この比率が低ければ、返済と利息に苦しむリスクが高いと見るのが一般的です。
比率が高い場合との対比となりますが、金融機関からの融資を受けにくくなります。倒産して資金が回収不能になるリスクの高い企業に対して、金融機関はそう簡単に融資の審査は通しません。
比率が低いときには、どのような原因があると考えられるのでしょうか。
【自己資本比率が低い場合に検討すること】負債が大きくなる要因
最も代表的な要因「赤字の発生」
赤字により企業の利益剰余金(内部留保)が減れば、自己資本比率が下がります。前述した自己金融の部分の減少です。
【補足】
利益剰余金は、企業が稼いだ利益の累積額です。利益がマイナスであれば、累積額が減少します。厳密に言えば会計用語として内部留保という言葉はありませんが、同義の言葉だとお考えください。
借入金による「借金の増加」
負債が増加すれば、相対的に自己資本比率は減少します。公式の分母が大きくなれば、分子が同値であっても、比率は下がりますよね。
「自社株買い」による資産減少
前述した直接金融が減少することになります。自社株買いとは、過去に発行した自社の株式を買い戻すことです。手元資金が減ってしまいます。
ただし、自社株買いには株価を上げる効果がありますので、一概に悪いものではありません。
「資産の含み益が減る」・含み損に変わる
資本には、その他有価証券評価差額金・繰延ヘッジ損益等といった評価・換算差額等の含み益も包含されています。
ですから、含み益が減少したり含み損となった場合は資本が減少。自己資本比率が低下します。
比率が低くなる原因がわかりました。では、どうすれば上昇させられるのでしょうか。
【自己資本比率の向上】資産を増やす方法
借入金・買掛金の工夫で「負債」を圧縮する
負債を減らし、公式の分母となる総資本を小さくすることが重要です。無駄な借入金があれば、メスを入れましょう。
買掛金や支払手形も負債ですので、決済方法を変更したり買掛金債務回転期間を短くしたりすることで比率を向上させることができます。
ただし、買掛金債務回転期間は長い方が資金繰りには有利です。買掛金債務回転期間の短縮は、キャッシュフローに無理のない範囲で行いましょう。
長期的に「内部留保」を高めていく
内部留保は、企業が稼いだ利益の累積額です。継続的に利益を創出し、これを積み増していきましょう。最もベーシックなことであり、会社が最も注力すべき部分です。
債務の株式化(DES)を活用し「増資」する
債務の株式化により、負債の一部を自己資本に振替えるのもひとつの方法です。
企業の債権を株式と交換します。具体的には、負債である借入金の純資産の資本金や資本剰余金への振替です。自己資本比率の上昇のほかにも、債務超過の解消・財務体質改善の効果があります。
【自己資本利益率(ROE)との違い】混同に注意
- 自己資本利益率(ROE):自己資本を活用してどれだけの利益を上げたか
- 自己資本比率:総資本における自己資本の割合
文字列は似ていますが、意味するところは似て非なるものです。混同しないよう留意してください。
自己資本利益率は総合的な収益性の経営指標として重用されています。
ROEについてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>ROEでわかることとは? 指標としての問題点や値の改善方法を解説
利益を上げるにはコストの見直し|oneplatで納品書・請求書受け取り業務のコスト削減
企業の第一命題は利益を上げることでしょう。利益を上げることは内部留保を増加させることに繋がり、自己資本比率向上にも寄与します。
利益を高めるには、売上を伸ばすだけではなく経費を抑えることも非常に有効です。
納品書・請求書クラウドサービスの「oneplat」を導入すると、経理業務の一部を自動化することができます。
取引先を登録することで、取引先から納品書・請求書をデータで受け取ることができるようになります。また、取引先から受領した電子請求書は、会計システムと連携して自動取込みが可能で、仕訳が不要です。
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納品書・請求書業務や仕訳の入力、法律への対応はいずれも煩雑な上に「企業活動には必要なものの売上に繋がらない業務」です。
このような業務を自動化することで、紙の納品書や請求書のファイリングや保管も不要になり、コストの削減に繋がるでしょう。
まとめ
自己資本比率とは総資本における自己資本の割合を示し、企業の財政状態が健全かどうかを示す経営指標です。
一般的に50パーセントを越えれば優良とされ、10パーセントを下回ると劣悪だとされます。しかし、業種によって適正水準に差がありますので、数値を比較する際は同業他社と比較しましょう。
過度な比率でなければ、自己資本比率が高いことは歓迎すべきことです。企業経営が安定している状態と言えます。コロナ禍においても、自己資本比率の高さから資金がショートせず、倒産を免れた企業は少なくないでしょう。
企業経営において、重要な指標のひとつです。是非、経営分析をする際には、この指標の算出もご検討ください。