「繰延資産」は、「くりのべしさん」と読みます。資産という名前が付いていますが、一般的な資産とは別に扱われるべき勘定科目です。
処理方法は減価償却に似ていますが、企業会計上と法人税務上で扱いが違っています。
日々発生する経費処理とは違って、長い期間かけて行うものです。正確な適用は節税にも繋がります。
この記事では、そんな繰延資産とはどういうものなのか、また流動資産や固定資産との違いはどういうものかまとめました。
具体的な勘定科目や内容についても解説していますので、是非最後までお読みください。
「繰延資産」とは? 流動資産や固定資産との違いもわかりやすく解説
繰延資産とは支払済みで複数の期をまたいで償却できる一部の「費用」を指す
繰延資産とは、貸借対照表の資産の部(借方)のひとつで、 それによる利益が期待される期間に合わせて償却するので、その間、貸借対照表に資産として計上されます。
本来費用となるものですが、その効果が次期以降に渡るので、発生した会計年度だけの費用として処理せず、数年にわたる費用として計上する方が合理的だという考え方に基づきます。
これは、減価償却と同じ考え方で、次期以降に繰り越す金額を資産として計上するのです。繰延資産を他の費用と分けて資産として計上し、それを償却していきます。
このような処理により、費用の効果の及ぶ会計期間中の費用として、処理をすることができる資産となります。
次は、貸借対照表の資産の部について説明をします。
貸借対照表で資産には繰延資産のほか「流動資産」「固定資産」が記載される
貸借対照表は、資産の部(借方)と負債の部・資本資本の部(貸方)を比較して、ある時点(おおよその場合は年度末)における企業の財政状態を表す資料です。
- 財政状態:企業の資金調達状況とその資金の運用状況を説明
- 貸借対照表の資産の部:企業が集めた資金の使い方の状況を説明
- 負債の部と資本の部は、企業が集めた資金を集めた方法を説明
- 資産の部は、前述の繰延資産に加えて、「流動資産」と「固定資産」を説明
次に、流動資産・固定資産との違いについて見ていきましょう。
【流動資産・固定資産との違い】財産価値の有無が違う
資産の部の勘定科目は上から、「現金にしやすい資産」の順番に並んでいます。現金化しやすいことを流動性が高いと言い、流動資産とは「現金化しやすい資産」ということです。具体的には、1年以内に現金化、費用化できるかどうかが、流動資産と固定資産の違いです。
流動資産の具体例としては、下記のような勘定科目があります。
- 現金・預金
- 受取手形
- 売掛金
- 棚卸資産
- 前渡金
- 前払金
- 短期貸付金等
つまり固定資産は、基本的に1年以上保有、使用する資産のことです。簡単に言うと「現金化しにくい資産」ということになります。
具体的例としては有形固定資産として、次のような勘定科目があります
- 土地、建物
- 建物付属設備
- 車両運搬具
- 工具器具備品
無形固定資産として、次のような勘定科目があります。
- 特許権
- 借地権等の法律上の権利
- ソフトウェア
- のれん(営業権)
- 電話加入権
それとは別に、資産の部に「投資等」に関する項目を設けている、貸借対照法もありますよ。
繰延資産は企業会計上と法人税法上で扱いが違う
繰延資産は企業会計上と法人税法上では該当する項目が違います。
企業会計上の繰延資産は、下記の5種類で、均等償却か任意償却のどちらかを選ぶことができます。
【企業会計】繰延資産の要件は3つある
繰延資産には、下記の3つの条件があります。
- 既にその支払いが完了しているか、支払い義務が確定している。
- これに対する役務の提供を受けている。
- その効果が次期以降に期待される。
繰延資産には換金性(売却してお金に変えることができる性質)がありませんので、ほかの資産と比べて資産としての性質が弱いです。原則としては繰延資産として計上せず、支出時の費用として処理することが原則です。
繰延資産として計上するかは、当該企業によって判断されます。
【企業会計】繰延資産に該当する具体的な勘定科目・5つ
1.創立費
会社設立のために使った費用で、定款および諸規則作成費、設立登記の税金等を示します。創立費は費用として処理するのが原則ですが、定額法により償却することもできます。
2.開業費
会社が設立されたのち、営業開始までに支出した開業準備のための費用で、広告宣伝費、通信交通費、事務用消耗品等があたります。開業費は原則として費用処理しますが、定額法により償却することもできます。
3.株式交付費
会社設立後に新株を発行するのに要した費用で、株式の募集の広告費、取り扱い手数料、変更登記手数料等を含みます。
株式交付費は原則として費用処理しますが、定額法により償却することもできます。
4.社債発行費
社債発行に要した手数料、広告費、印刷費等です。社債発行費は原則として費用処理しますが、定額法により償却することもできます。
5.開発費
新技術の採用、経営組織の改善、資源の開発、新しいマーケットの開発のために支出した特別な費用です。開発費は原則として費用処理しますが、定額法により償却することもできます。
【企業会計】繰延資産の償却期間を押さえよう
繰延資産の償却期間と償却限度額は、企業会計上で決められています。
償却期間は償還期間内の各年度ごとの均等償却か、任意償却を選ぶことが可能です。
均等償却の償却期間は勘定科目によって、5年か3年とされています。
社債発行費の任意償却だけは、社債償還期間中となり、期間が特に決められていません。
繰延資産は、基本的には早期の償却が求められています。
企業会計上では、当該期末現在の繰延資産の額の全額が償却限度額となります。
【法人税法上】繰延資産の要件は企業会計より広い
税務上の繰延資産とは次に述べる費用で、いずれも支出の効果が1年以上期待されるものです。
- 企業が使用する公共的施設、共同的施設に関わる費用
- 資産の借りたり使用したりするための権利金や立ち退き料等の費用
- 労働力の提供してもらうための権利金等の費用
- 製品等の広告宣伝の用に使う資産を与えた費用
- 1~5までの費用のほか、自己が利益を受けるために使う費用
これらの費用は、企業会計上の繰延資産とはなりませんので、繰延資産としては扱いません。
投資・その他の資産の区分で長期前払費用として処理される場合が多いようです。
法人税法上では繰延資産について、償却期間について画一的に定めています。
【法人税法上】繰延資産に該当する具体的な勘定科目や内容の例・9つ
1~5.企業会計で繰延資産に該当する5つの勘定科目|創立費・開業費・株式交付費・社債発行費・開発費
(例)
開発費5,000,000円が発生し、当座預金より支払いました。
1.繰延資産にはせずに、当期に一括償却した場合は、以下のとおりになります。
借方 | 貸方 |
---|---|
開発費 5,000,000 | 当座預金 5,000,000 |
2.繰延資産として計上して、5年で均等償却する場合
借方 | 貸方 |
---|---|
開発費 5,000,000 | 当座預金 5,000,000 |
1会計年度の開発費の償却額(5,000,000÷5=1,000,000)はこのようになります。
借方 | 貸方 |
---|---|
開発費償却 1,000,000 | 開発費 1,000,000 |
繰延資産として、借方に開発費が4,000,000円が持ち越されます。
6.資産を賃借したり使用したりするための権利金
該当条項 | 種類 | 細目 | 償却期間 |
---|---|---|---|
令第十四条第一項第六号ロ《資産を賃借するための権利金等》に掲げる費用 | 建物を賃借するために支出する権利金等(8-1-5(1)) | (1) 建物の新築に際しその所有者に対して支払った権利金等で当該権利金等の額が当該建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し、かつ、実際上その建物の存続期間中賃借できる状況にあると認められるものである場合 | その建物の耐用年数の7/10に相当する年数 |
(2) 建物の賃借に際して支払った(1)以外の権利金等で、契約、慣習等によってその明渡しに際して借家権として転売できることになっているものである場合 | その建物の賃借後の見積残存耐用年数の7/10に相当する年数 | ||
(3) (1)及び(2)以外の権利金等の場合 | 5年(契約による賃借期間が5年未満である場合において、契約の更新に際して再び権利金等の支払を要することが明らかであるときは、その賃借期間) | ||
電子計算機その他の機器の賃借に伴って支出する費用(8-1-5(2)) | その機器の耐用年数の7/10に相当する年数(その年数が契約による賃借期間を超えるときは、その賃借期間) |
出典:国税庁
7.広告宣伝用に作成した資産
該当条項 | 種類 | 細目 | 償却期間 |
---|---|---|---|
令第十四条第一項第六号ニ《広告宣伝用資産を贈与した費用》に掲げる費用 | 広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用(8-1-8) | その資産の耐用年数の7/10に相当する年数(その年数が5年を超えるときは、5年) |
出典:国税庁
8.役務の提供をうけるための権利金
該当条項 | 種類 | 細目 | 償却期間 |
---|---|---|---|
令第十四条第一項第六号ハ《役務の提供を受けるための権利金等》に掲げる費用 | ノウハウの頭金等(8-1-6) | 5年(設定契約の有効期間が5年未満である場合において、契約の更新に際して再び一時金又は頭金の支払を要することが明らかであるときは、その有効期間の年数) |
出典:国税庁
9.公共的または共同的施設の負担金
該当条項 | 種類 | 細目 | 償却期間 |
---|---|---|---|
令第十四条第一項第六号イ《公共的施設等の負担金》に掲げる費用 | 公共的施設の設置又は改良のために支出する費用(8-1-3) | (1) その施設又は工作物がその負担した者に専ら使用されるものである場合 | その施設又は工作物の耐用年数の7/10に相当する年数 |
(2) (1)以外の施設又は工作物の設置又は改良の場合 | その施設又は工作物の耐用年数の4/10に相当する年数 | ||
共同的施設の設置又は改良のために支出する費用(8-1-4) | (1) その施設がその負担者又は構成員の共同の用に供されるものである場合又は協会等の本来の用に供されるものである場合 | イ 施設の建設又は改良に充てられる部分の負担金については、その施設の耐用年数の7/10に相当する年数 ロ 土地の取得に充てられる部分の負担金については、45年 | |
(2) 商店街等における共同のアーケード、日よけ、アーチ、すずらん灯等負担者の共同の用に供されるとともに併せて一般公衆の用にも供されるものである場合 | 5年(その施設について定められている耐用年数が5年未満である場合には、その耐用年数) | ||
令第十四条第一項第六号ロ《資産を賃借するための権利金等》に掲げる費用 | 建物を賃借するために支出する権利金等(8-1-5(1)) | (1) 建物の新築に際しその所有者に対して支払った権利金等で当該権利金等の額が当該建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し、かつ、実際上その建物の存続期間中賃借できる状況にあると認められるものである場合 | その建物の耐用年数の7/10に相当する年数 |
(2) 建物の賃借に際して支払った(1)以外の権利金等で、契約、慣習等によってその明渡しに際して借家権として転売できることになっているものである場合 | その建物の賃借後の見積残存耐用年数の7/10に相当する年数 | ||
(3) (1)及び(2)以外の権利金等の場合 | 5年(契約による賃借期間が5年未満である場合において、契約の更新に際して再び権利金等の支払を要することが明らかであるときは、その賃借期間) | ||
電子計算機その他の機器の賃借に伴って支出する費用(8-1-5(2)) | その機器の耐用年数の7/10に相当する年数(その年数が契約による賃借期間を超えるときは、その賃借期間) |
出典:国税庁
【法人税法上】繰延資産の償却期間を押さえよう
繰延資産は勘定科目によって償却期間が違い、それぞれ償却方法も決められています。
一方、償却は月割りによる償却になります。
- 創立費は、5年以内に定額法で処理することを選んだ企業は、未償却残を繰延資産として計上することになります。
- 開業費は、5年以内に定額法で処理することを選んだ企業は、未償却残を繰延資産として計上することになります。
- 株式交付費は、3年以内に定額法で処理することを選んだ企業は、未償却残を繰延資産として計上することになります。
- 社債発行費は、社債償還期間にわたり、定額法か、任意の時点で償却できる任意償却で処理します。
- 開発費は、5年以内に定額法で処理することを選んだ企業は、未償却残を繰延資産として計上することになります。
繰延資産は活用するメリットのある特殊なもの
繰延資産を活用すると、法人税の節税メリットがあります。 繰延資産は「資産」という名前ですが、実際は費用のことです。企業会計上の繰延資産は財務内容に合わせて償却できますので、業績が黒字化した時点で費用として計上できます。
会社設立、起業後はすぐに黒字化できるとは限りません。繰延資産は赤字年度の償却は避けて、業績が黒字化してから償却ができるため、適用すれば節税に繋がります。
繰延資産を正しく理解し、適切な処理を行うことで、節税に取り組めます。
【まとめ】繰延資産について基本を押さえよう
繰延資産とは、貸借対照表の資産の部(借方)のひとつで、流動資産、固定資産の下に書き加えられる資産です。
繰延資産は、企業会計上と法人税法上で扱う項目が違うのです。企業会計上では、下記が繰延資産の条件を満たしています。
- 創立費
- 開業費
- 株式交付費
- 社債発行費
- 開発費
法人税法上では、もう少し広義に同様の性質を持つものを繰延資産として認めています。
繰延資産を理解することは、節税のメリットにも繋がります。この記事が、お役に立てれば幸いです。