棚卸資産回転率について、疑問を抱える方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
「棚卸資産回転率って一体何?」「どうやって算出するの?」「どんな風に使う指標なの?」「棚卸資産回転期間とはどう違うの?」
当記事では、そんな疑問を解消すべく、棚卸資産回転率についてわかりやすく紹介していきます。
【棚卸資産回転率とは】意味や単位・棚卸資産回転期間との違いを紹介
棚卸資産回転率とは|商品・サービスの販売効率がわかる指標
まず、棚卸資産回転率とは何かというところから確認しましょう。(在庫回転率という言葉もありますが、意味合いは棚卸資産回転率と同じです。)
端的に言うと、棚卸資産回転率とは、「棚卸資産の運用効率を表す指標」です。
「棚卸資産を売上高によって回収する速度を表す指標」「棚卸資産が売上高によって何回転したかを示す指標」等と表現されることもあります。
ある会社について、以下のように考えた場合に役に立つのが、この棚卸資産回転率です。
- 「商品の売れ行きが順調なのかを知りたい!」
- 「仕入と販売を効率的に行えているかを知りたい!」
- 「在庫を適切に管理できているかを知りたい!」
後段では数値を用いて解説していきますので、そちらで具体的なイメージを掴んでいきましょう。
一般的には、棚卸資産回転率は高いほど良好な状態だとされています。しかし、高すぎる場合は、必ずしも良好な状態であるとは言えません。
また、比較的低い場合にも問題があると判断されることがあります。このことも詳しく後述します。
「回転率」とは|商品の仕入から売上までのサイクルの単位
「棚卸資産」とは在庫のことを指す言葉で、こちらはご存知の方も多いかと思います。では「回転率」とは何なのかと言うと、財務情報を分析する際に登場する概念です。
回転率という言葉の意味は、以下の2通り存在します。
- 売上高と資産の関係における回転(年間で、投下した資本の何倍の売上高を得られたか)
- 資産の実体的な回転(年間で、当該資産が何回消費されたか)
「率」という言葉が付くので単位は「%」としたくなるところですが、単位は「回 (回転)」です。
「棚卸資産回転率」は、売上高と棚卸資産の関係を表していますので、上記の意味のうち前者に該当します。
違い|棚卸資産回転期間とは棚卸資産の「1回転」にかかる期間
棚卸資産回転率と似たような言葉で、「棚卸資産回転期間」という言葉があります。「率」と「期間」の違いですが、どういった意味になるのでしょうか。
実は、前段で説明した「回転率」という概念に対して、「回転期間」という概念が存在します。これらは、数値上、常に逆数の関係をとります。(逆数とは、分子と分母を逆転させた数字のことです。)
その意味合いは、前段の表記と対応させると、以下のいずれかに該当します。
- 売上高と資産の関係における回転(投下した資本を売上高により回収するまでの期間)
- 資産の実体的な回転(投下した資産が消費されるまでの期間)
つまり、「回転率」が、一定の期間で何回転か を表すのに対し「回転期間」は、一回転にどれほどの期間がかかるか を表します。
回転率の単位が「回(回転)」であるのに対して、回転期間の単位は「日(月、年)」です。
【棚卸資産回転率の求め方】2種類の計算式と例題
①「売上原価」を使用した計算式
棚卸資産回転率は、理論的な背景からは、分母に売上原価を用いて、下記の式で表されます。
売上原価
棚卸資産回転率=───────────
棚卸資産
この式における棚卸資産回転率は、棚卸資産が売上原価に対して何回転したかを表しています。なぜ、売上高でなく売上原価が用いられるのでしょうか。
理論的には、売上高のうち、「原価部分は投下資本の回収」「利益部分は外部からの資金流入」として捉えられます。
そのため、原価部分である売上原価を用いて計算することで、純粋に棚卸資産が何回転したかを把握することができるのです。
このことから、売上原価を用いて算出した棚卸資産回転率は、在庫管理の上でより役立つ指標であると言えます。
②「売上高」を使用した計算式
実務上は、前段の「売上原価」の部分を「売上高」とした下記の式も普及しています。
売上高
棚卸資産回転率=───────────
棚卸資産
この式における棚卸資産回転率は、棚卸資産が売上高に対して何回転したかを表しています。棚卸資産回転率という言葉は同じですが、前段のものと数値が異なる点に注意が必要です。
前述のとおり、分母の売上高には利益部分が含まれるので、その分正確さは失われてしまいます。しかし、この方法によれば売上高と棚卸資産の直接的な関係が把握できます。
このことから、売上高を用いて算出した棚卸資産回転率は、財務分析の上でより役立つ指標であると言えます。
正確に計算するには「期中平均値」を用いて算出する
棚卸資産回転率の計算方法として、上記の2つを解説しました。前段は分母に着目した解説でしたが、ここでは分子について解説します。どちらも分子は「棚卸資産」となっていますね。
実は、貸借対照表に表示される棚卸資産の残高は、決算日という一時点における情報に過ぎません。一方で、売上高や売上原価といった損益計算書上の数値は、年間の累計額を表しています。
そのため、棚卸資産残高の数値は「期中平均値」を用いることが望ましいとされています。
「期中平均値」の算出方法は、以下のとおりです。
期首棚卸資産+期末棚卸資産 期中平均棚卸資産=────────────────── 2 |
これにより、分母と分子の両数値が適切に対応し、実態をより正確に表した棚卸資産回転率を得られることとなるのです。
棚卸資産の変動が非常に少ない場合や、二期分の数値が入手できない場合等には、期末の棚卸資産の数値をそのまま用いることもあります。
棚卸資産回転率の求め方を例題から解説
それでは、具体的な数値に基づいて、棚卸資産回転率を算出してみましょう。
以下の表のような、A社とB社の場合を考えます。
単位:万円
A社 | B社 | |
期首棚卸資産 | 400 | 500 |
期末棚卸資産 | 600 | 700 |
売上高 | 8,000 | 6,000 |
売上原価 | 4,000 | 5,000 |
まず、それぞれの期中平均棚卸資産を求めましょう。
A社:(400+600)÷2=500 B社:(500+700)÷2=600 (万円) |
これを用いて、棚卸資産回転率を算出すると、以下のようになります。
【分母に売上高を用いる場合】
A社:8,000÷500=16 B社:6,000÷600=10 (回) |
【分母に売上原価を用いる場合】
A社:4,000÷500=8 B社:5,000÷600=8.3333… (回) |
ご覧の通り、売上高を用いる場合と売上原価を用いる場合では結果が異なっていますね。また、棚卸資産回転率の大小関係も異なっています。
前段で述べたとおり、分母にどちらを用いるかは、それぞれが適合する目的によります。
自身で算出する際や、データを参照する際には、どちらが適しているかを意識する必要があると言えるでしょう。
【棚卸資産回転率の評価】業種別平均値からわかる目安
一般的な棚卸資産回転率の目安
棚卸資産回転率は、業種や事業規模によって平均値が異なります。そのため、一概にこの数値であればこうだと言える基準はないのですが、一般的に抱かれる大まかな印象としては以下のようになります。
棚卸資産回転率 | 抱かれる印象 |
---|---|
~5回 | 低い。在庫を抱えすぎている可能性がある? |
6回~11回 | 高いとは言えない。改善の余地があるかも。 |
12回~23回 | 平均的。1か月に1回以上回転している。 |
24回~ | 1か月に2回以上回転しており、高効率。 |
あくまでも目安ですので、より厳密に判断したい場合は、次段の業種別平均を参照されるのが良いでしょう。
業種別の棚卸資産回転率の平均回転数
前述しましたが、棚卸資産回転率の平均値は業種によって様々です。自社の棚卸資産回転率の良し悪しは、同業種の平均値と照らし合わせて判断するのが良いでしょう。
以下の表は、経済産業省によるデータを加工したものです。
業種 | 平均棚卸資産回転率(回) |
---|---|
製造業 | 9.5 |
卸売業 | 15.7 |
小売業 | 16.4 |
運輸業 | 151.6 |
飲食業 | 116.5 |
上記は一例にすぎませんが、業種ごとに棚卸資産回転率の平均値が大きく異なることが見て取れますよね。
また、会社の規模によっても異なる数値が現れます。
以下の表は、上記の表と年度は異なりますが、同じく経済産業省によるデータを加工したものです。
単位:回
中小企業 | 大企業 | |
---|---|---|
製造企業 | 12.6 | 10.5 |
卸売企業 | 15.9 | 23.3 |
小売企業 | 9.5 | 13.5 |
中小企業と大企業で、相当の差がありますね。また、その大小関係も、業種により異なることがわかるでしょう。
※ここで紹介した上記2つのデータにおける棚卸資産回転率は、分母の値に売上高を採用した場合のものです。
棚卸資産回転率の判断においては、これらのことを念頭に置いておく必要があるでしょう。
【棚卸資産回転率の分析】複数年で比較することが重要
棚卸資産回転率は、自社の過去の数値との比較、同業他社の数値との比較等により、財務分析に資する情報を与えてくれます。業種別の平均値も役に立つデータではありますが、重要性が増すのは中長期的な目で判断する場合です。
また、同業他社の数値も非常に参考になるデータですが、自社のデータに比べると入手する手間がかかります。
以上の点から、より短期的な視点で判断する際には、まず自社の過去の数値を参考にするべきと言えるでしょう。経営分析の際には、直近3年程度のデータを参照すれば、業績の変遷がある程度見えてくるはずです。
【棚卸資産回転率が高い場合】基本的な見方とリスク
基本的な見方|数値は高いほど良い
基本的に、棚卸資産回転率は高いほど良いと言えます。棚卸資産回転率が高いということは、仕入→販売というサイクルが多いということなので、商品の売れ行きが好調であると言えるためです。
回転率と回転期間の関係を考えれば当然ですが、棚卸資産回転期間は短いほど良いと言えます。
商品を仕入れてから、在庫として保有している期間が短いということを表しているので、適切な在庫管理ができていると言えるためです。
リスク|数値が高すぎると「在庫不足」が起きる
棚卸資産回転率は高いほど良いと述べましたが、あまりに高すぎる場合は、不都合が生じる場合があります。
仕入れた商品がすぐに売れていくというのは理想的なことです。しかし、災害や事故等の事態により、仕入や生産が急に止まってしまった場合は、在庫不足の状態に陥る可能性が高まってしまうのです。
在庫不足により商品の売り切れ等が発生してしまうと、顧客の流出等のリスクが発生してしまいます。
そのため、棚卸資産回転率があまりに高い場合は、一時的な販売制限等の対策を取ることも大切かもしれません。
【棚卸資産回転率が低い場合】原因と対策
原因|不良在庫や滞留在庫がある
棚卸資産回転率が低い場合は、その事業は好調とは言えないでしょう。
棚卸資産回転率が低い原因としては、以下のように考えられます。
- 商品の売れ行きが悪く、仕入→販売のスパンが長い。
- 不良在庫(仕入れ過ぎた商品や管理の行き届いていない商品)が多い。
- 滞留在庫(劣化等により販売の見込みがない商品)が多い。
不良在庫や滞留在庫は、棚卸資産として計上されます。
そのため、商品の売れ行きが良い場合でも、不良在庫や滞留在庫を多く抱えていては、棚卸資産回転率は下がってしまうのです。
対策|整理・目標設定・商品別管理
棚卸資産回転率が低い場合の対策としては、主に以下の3つが考えられます。
1.不良在庫や滞留在庫を整理する
棚卸資産回転率が低い原因として不良在庫や滞留在庫の存在が挙げられる場合は、これらについて対策を取る必要があります。
考えられる方法としては、以下の通りです。
- 値引きして販売する
- 廃棄する
- 業者に依頼して引き取ってもらう
2.適正数値を目標に設定し定期的に確認する
在庫の管理が原因と思われる場合は、適切な目標を設定し、その目標を達成できるよう、定期的に状況を確認するのが良いでしょう。
目標の設定には、過去の自社データが役に立ちます。売り上げの動向や、在庫のリードタイム等から判断し、適正と思われる数値を割り出しましょう。
また、状況の確認はなるべくこまめにするのが理想的です。棚卸資産回転率の悪化が素早く把握できれば、その都度対策を練ったり、目標を修正する等のアクションに繋げられるためです。
3.商品別に棚卸資産回転率を管理する
商品全体としての売れ行きは悪くなくても、ある特定の商品のみの動きが悪いために、棚卸資産回転率が低下している場合があります。そのようなケースにおいては、その商品を特定し、個別に対策を練る必要があります。
こういった事態に備えて、商品別に棚卸資産回転率を管理できるような体制を整えておくことも、棚卸資産回転率を向上させるための有効な手段のひとつです。
【まとめ】棚卸資産回転率の求め方や目安について押さえよう
ここまで棚卸資産回転率について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。
押さえていただきたいポイントは、以下の5つです。
- 棚卸資産回転率とは、棚卸資産の運用効率を表す指標
- 棚卸資産回転率は売上高か売上原価を用いて算出される
- 棚卸資産回転率は概ね12回(月に1回転)程度が平均的(※業種や規模により異なる)
- 棚卸資産回転率は高いほど良いが、高すぎる場合は注意が必要
- 棚卸資産回転率が低い場合は、対策が必要
財務指標は数字の羅列だと思うとわかりにくいですが、意味を理解しておけば分析の手助けとなってくれます。当記事がその理解の一助となれば幸いです。