資産の中でも「固定資産」は、企業の利益に長期的に関わってくる重要なものです。しかし固定資産の処理には様々な方法や定めがあり、難しいと感じている方もいるでしょう。そこで今回は固定資産について詳しく解説していきます。固定資産の概念や種類、決算時に重要な減価償却の方法についても詳しくみていきましょう。
固定資産とは? 流動資産や繰延資産との違いも解説
固定資産とは企業が所有する資産のうち1年以上保有または使用するものを指す
固定資産とは企業が1年以上続けて使用、または投資目的等で長い年月にわたり保有する資産を指します。例えば土地や建物、特許権やソフトウェア等です。決算書では貸借対照表の左側、資産の部に表示されます。その際に表示される金額は「取得金額」または「取得金額をもとにした評価額」です。固定資産の費用処理は決算時に一括で処理するのではなく、耐用年数に応じて減価償却を行い費用として計上していきます。
貸借対照表に記載される資産は固定資産の他に「流動資産」「繰延資産」がある
貸借対照表の資産の部は大きく分けて3つあります。現金や有価証券、受取手形等1年以内に現金化できる資産である「流動資産」。建物や設備、電話加入権等を1年以上使用・保有するのが目的の「固定資産」。そして、創設費や開発費等会社経営や資産運用のために出費した費用を指し、短期でも長期でも現金化できない「繰延資産」です。貸借対照表では、流動性が高いものから順番に配列されています。それぞれの違いをみていきましょう。
【流動資産との違い】1年以内に現金化できるかが違う
固定資産と流動資産の大きな違いは、“1年以内に現金化できるかどうか”です。必ずしも1年という期限ではありませんが、流動資産と固定資産に区分する際の判断基準となります。流動資産と固定資産に分ける理由は、資金がどのように運用されているのかを貸借対照表で簡単に把握できるようにするためです。流動資産が多ければ換金性の高い資産を多く保有している。また固定資産が多いと設備投資に力を入れたのかもしれない、といった見方が出来るのです。
【繰延資産との違い】財産価値の有無が違う
固定資産は会社が保有している設備や機械を使って売上をあげたり、売却したりと「財産価値」にあるものを言います。それに対して繰延資産は、既に支払いが済んでいるもののすぐには費用化せずに、複数期間にわたってそれぞれ定められた方法・期間で償却をおこない費用化することが認められているものを言います。よって資産に計上されているものの、繰延資産は財産価値のないものとなるのです。
固定資産は3つの種類に分類される|特徴と具体的な勘定科目の例
有形固定資産|固定資産のうち形があるもの
有形固定資産とは、1年以上事業のために使用するのが目的で保有している資産のうち、実態があるものを指します。具体的には、事務所や工場が建てられている土地。企業の事務所や営業所等の構造物。そして商品を作り出すために資材等を加工している機械や設備。事業を継続していく上で必要な、車両やフォークリフト等の荷役自動車も含まれます。
また、将来的に有形固定資産として計上予定の建設中のビルや建物を建てるために先に支払っているものも、「建設仮勘定」として有形固定資産に計上可能です。建設仮勘定は、完成後に建物として振替仕訳を行います。
無形固定資産|固定資産のうち形のないもの
無形固定資産とは、長期間事業のために使用する資産の中でも形をもたないものです。例えば、コンピューターソフトであるソフトウェア。企業を買収したときに、その企業がもっていた技術やブランドであるのれん。土地や建物の所有権や借地権。独自に発明したものを産業上で独占できる特許権等です。ほかにも商標権や実用新案権等、法律上の権利等も無形固定資産になります。無形固定資産は、資産に計上後毎期均等に償却され、償却額を差し引いた残額が貸借対照表の期末の評価額となります。
投資その他の資産|固定資産のうち投資目的のものや上記に当てはまらないもの
投資その他の資産とは、有形固定資産にも無形固定資産にも入らないものを言います。
具体的には、すぐに売ったり買ったりといった短期的な売買を目的としていない投資有価証券。グループ会社等の関係会社株式や出資金。そして1年未満で回収予定のない長期貸付金が該当します。
貸付金は1年以内の返済予定のものは流動資産になるのでご注意ください。また投資その他資産とは、必ずしも投資目的とした資産ばかりではありません。ほかに含めて記載する適当な区分がない、長期性のある資産を管理するためのものでもあります。例えば、長期前払費用や保険積立金等が該当します。
固定資産には「減価償却するもの」「しないもの」がある
減価償却するのは「有形固定資産」「無形固定資産」のうち経年で価値が下がるもの
減価償却とは固定資産の購入にかかった金額を一括で費用として計上するのではなく、数年から数十年にわたり分割して費用計上する会計処理の方法です。しかし固定資産すべてが減価償却の対象となるのではなく、業務で実際に使用しているもの・経年劣化や損耗により時間の経過とともに価値が下がる資産になります。
例えば有形固定資産であれば、建物や構築物、車両や機械装置(パソコンやプリンター)等です。無形固定資産であればソフトウェアや商標権等が対象になります。また、減価償却できる資産を「減価償却資産」とも言います。
なぜ減価償却をすることになっているのか?
減価償却は「年月とともに資産価値が下がるものは、一括で費用とせず毎年分割で費用計上しよう」という考えが元です。一括で処理した場合は、その年の費用は膨れ上がります。それにより赤字になると会社の存続に関わる可能性もあるでしょう。そういった事態を避けるためにも、長期間使用する固定資産は決まった方法で分割して費用計上するようになったのです。
減価償却しないのは経年で価値が下がらないもの|具体例を紹介
業務に実際使用していないもの・年月がたっても価値が下がらないものは減価償却の対象外になります。土地や借地権は時間とともに価値が下がりません。そして歴史的価値のある絵画や骨董品。事務所や店舗を借りる際に支払った敷金や保証金等、後から返還されるもの。
また、稼働が休止している資産も業務に使用しているとは言えないため、減価償却できません。事務所で使用する電話の加入権も年月とともに劣化しないので、対象外となります。
減価償却資産には例外がある|租税優遇措置について解説
減伽償却資産のうち、取得価格が10万未満または使用可能期間が1年未満のものは、購入時に一括で費用計上ができます。また資本金や出資金の額によっては(1億円以下の中小企業)、取得価格が30万円未満のものも一括で費用計上できる特例もあるのです。
取得金額を決める方法としては、会社が「税抜経理方式を採用していれば税抜価格」「税込経理方式を採用していれば税込価格」で判定します。
取得価格が10万円未満|少額減価償却資産に該当
取得価格が10万円未満の減価償却資産を「少額減価償却資産」と言います。耐用年数にかかわらず、10万円未満または使用年数が1年未満のものは、重要性が低いものとして購入したときに一括で費用計上が可能です。
しかし、必ずしも一括で費用計上しなくてはいけないという訳ではなく、全額費用計上するか減価償却資産とするかは会社で決めることができます。早く費用計上すれば節税対策にもなるので、10万円未満であれば全額費用として計上できると覚えておくと良いでしょう。
取得価格が20万円未満|一括減価償却資産に該当
取得価格が20万円未満の減価償却資産は、耐用年数にかかわらず一律3年で減価償却ができる「一括償却資産」となります。通常減価償却は「取得価格」と「それぞれ定められた耐用年数」を用いて定額法または定率法で計算します。
仮に耐用年数が5年の固定資産であれば、5年かけて少しずつ取得価格を費用として計上です。しかし、20万円未満の固定資産であれば、定められた耐用年数に限らず3年で減価償却が可能になります。
中小企業の税制優遇措置|10万円以上30万円未満の減価償却資産の場合
資本金や出資金が1億円未満の中小企業であれば、取得価格が10万円以上30万円未満の減価償却資産を一括で費用計上が可能です。このような資産を「少額減価償却資産」と呼び、特例として中小企業者等に認められた制度になります。
しかし少額減価償却資産の一括計上は、計上年度の取得合計額が300万円未満にする必要があります。300万円を超える場合は、少額減価少額資産として計上する資産を厳選しなくてはいけないので注意しましょう。
【疑問】パソコンは減価償却資産のうちどの扱いになるのか?
パソコンは一部の中小企業を対象として少額減価償却資産として扱うことができます。しかし、パソコンはスペックによって購入代金に差があるため、金額によって減価償却の方法を変えなければいけません。中小企業であれば年間の少額減価取得資産を300万円未満にすることで、一括で費用計上できます。
しかし対象とならない企業であれば、10万未満の取得価格では消耗品として一括計上が可能。10万円以上20万円未満であれば「一括減価償却資産」として費用計上ができます。30万円以上の取得価格のパソコンを購入した場合は特例が適用できませんので、通常通り4年~5年かけて減価償却が必要です。パソコン購入時には、減価償却の定めも考慮した上で購入するのがおすすめです。
減価償却資産の減価償却|2つの方法を解説
1.定額法|一定額を毎年償却限度額にする方法
定額法は、毎年決まった金額を費用計上して減価償却を行います。会計期間の途中で新しい土地や建物等資産を購入した場合は、新しい資産に関しては定額ではなく月割り計算で減価償却費を計上します。
定額法の計算式
減価償却費=資産の取得価格×定額法の定められた償却率
償却率は耐用年数ごとに決まっています。定額法では毎年同じ金額を費用計上していくので、最後は取得価格がなくなってしまいます。しかし0円になっても固定資産がなくなってしまうわけではないので、忘れないためにも耐用年数最後の年は、帳簿価格を1円残した状態で減価償却費を計上しましょう。
2.定率法|償却限度額が年々小さくなる方法
減価償却の定率法とは、固定資産の取得価格からそれまで減価償却した金額を差し引いた残存価格に、一定の率をかけて減価償却を行う方法です。減価償却費を計上する初年度の償却額が最も高く、年々計上金額が小さくなっていくという特徴があります。
そのため初年度の償却額が大きく、節税効果を見込めるといったメリットがあります。しかし、年数とともに節税効果が期待できなくなり、また計算が複雑といったデメリットもあるのです。
定率法の計算方法
減価償却費=取得価格からそれまでの償却額を引いた額×定率法で定められた償却率
定額法で計算する場合は、取得価格を基準としていました。しかし定率法を用いるときは、取得価格からそれまでの償却額を引いた額を基準とします。そのため毎年計上金額が変わるのです。
【注意】固定資産の減価償却方法は届け出をしよう
減価償却費の処理方法を決めるには、事前に税務署への届け出が必要です。法人税法では資産の種類ごとに減価償却の方法が定められていますが、事前に届け出を出すことにより、任意の方法で減価償却が可能になります。
しかし届け出を出さなかった場合は、“法廷償却法”であるあらかじめ法律で決められた償却方法が強制的に適用されることになるので覚えておきましょう。また、減価償却法の選定は資産の種類ごとに届出が必要になります。
【まとめ】固定資産の種類や減価償却資産との区別、租税優遇措置について押さえよう
固定資産とは、性質や特徴によって3つに分けられています。そして固定資産の会計処理に必要不可欠なのが「減価償却」です。中には減価償却する“減価償却資産”としないものがあり、方法も定額法と定率法があります。企業の規模によっては“租税優遇措置”の特例もあり、節税効果も期待できるので、参考にしてみてください。